2024年、WORKSIGHTで最も読まれた記事ベスト10
2024年は計60本のニュースレターを配信したWORKSIGHT。2024年最後のニュースレターでは、年末企画として今年の人気記事TOP10を発表します。編集長の山下正太郎、コンテンツディレクターの若林恵を含む、11名の編集部員によるおすすめ記事もあわせてご紹介。見逃していた記事があればこの機会にぜひ。
photo created by WORKSIGHT (photograph by Kaori Nishida, Hana Yamamoto, Ryoichi Kawajiri, Toru Otani)
text by WORKSIGHT
2024年の人気記事 TOP10
まずは今年配信したニュースレターのなかから、特に人気だった記事を10位からランキング形式でお届け。新たな商いのかたち、さまざまな主体から見る都市と社会のいま、経済活動や環境保全の未来など、さまざまなテーマの記事がランクインしました。
No.10|あの人は、今日も石を拾っている:「石の人」氏と考える、現代の石カルチャー(10月1日配信)
photograph by ISHINOHITO
『ユリイカ』2024年9月号で特集が組まれ、同時期に新作映画『石がある』も公開されるなど、近年「石」が注目を集めている。古くから美術家や哲学者が関心を寄せてきたが、最近では石を拾い、SNSに写真を投稿するユーザーが急増。彼らにはどのような世界が見えているのだろうか。青森・七里長浜での初めての石拾い体験、そしてブログで石の魅力を発信する「石の人」氏へのインタビューから、その現象を考察する。
No.9|多元世界・サパティスタ・水俣:A・エスコバルに学ぶ「デザイン」の新たなディシプリン(4月9日配信)
photograph by Shunta Ishigami
人類学の立場からデザインの再構築を図ったアルトゥーロ・エスコバルの著書『Designs for the Pluriverse』。2018年に発売され、世界的な注目を集めた同書の日本語翻訳版『多元世界に向けたデザイン』が今年2月、ついに発売された。エスコバルとは何者で、タイトルにも含まれる「Pluriverse(多元世界)」とは何を指すのか。監修者の森田敦郎氏、翻訳者の奥田宥聡氏に解説してもらった。
No.8|都市と農村を重ね書きせよ:イタリア「テリトーリオ」をめぐる実践と叡智(7月2日配信)
photograph by Giulio Origlia/Getty Images
日本ではまだ聞き慣れない、イタリアの「テリトーリオ」ということば。それは、都市と農村の新しい関係、自治の戦略、自然や歴史との調和を目指す生き方・働き方、さらにはスローフード運動などの食文化までも包括する、あまりに豊かで魅力的な概念だという。そうした「テリトーリオ」の広がりから、わたしたちはいったい何をすくい取り、実践へつなげることができるだろうか。イタリア建築史・都市史の顕学、陣内秀信氏が解説する。
No.7|創造の「飛び地」は、どこにでもある:小島秀夫と王城夕紀が語り合う、混迷の時代のクリエイション(10月15日配信)
photograph by Kaori Nishida(合成画像:photograph by Digital Vision/Getty Images)
ゲームクリエイター・小島秀夫氏がSNSで激賞した、気鋭の作家・王城夕紀氏によるSF長編小説『ノマディアが残された』。国家が半ば崩壊し、世界中を「動民」が行き交う時代を背景に、秘密組織「複製課」のエージェントたちが、人類を二分する陰謀に立ち向かうSF諜報活劇だ。近未来を舞台にしながらも、現代のわたしたちに鋭い問いを投げかける両者のクリエイション。初対面となるふたりが、そのビジョンを具現化する苦悩と悦びを語り合う。
No.6|いつかいなくなるというデザイナーと、その「力」について:3DCGデザインの俊英・八木幣二郎の試み(6月4日配信)
photograph by Hana Yamamoto
今年5月から7月にかけて、ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて個展「NOHIN: The Innovative Printing Company 新しい印刷技術で超色域社会を支えるノーヒンです」を開催したデザイナー・八木幣二郎氏。架空の印刷会社「NOHIN社」のコーポレート・アイデンティティや、敬愛する横尾忠則ら10人の傑作ポスターとその再解釈を行った新作を展示した本展は、“並行世界”がひとつのキーワードだったという。その真意とデザインのこれからを尋ねた。
No.5|みんなソシオロジストになればいい:環境社会学者・宮内泰介の「自分たちのことを自分たちで調査する」のススメ(8月20日配信)
photograph by Ryoichi Kawajiri
社会学はゆるくてよい。みんながそれぞれの社会学をはじめよう──。なんとも風通しの良いメッセージを放つ、北海道大学大学院教授・宮内泰介氏が上梓した『社会学をはじめる:複雑さを生きる技法』。「社会を知るということは、いったいどういうことなのか?」という問いを胸に、調査すること、社会を知ることの根源に迫る本書は、どのような試行錯誤を経て生まれたのか。環境社会学の第一人者による、「調査」と「運動」をめぐる新たな提言。
No.4|失踪老人からチャルメラバンドまで:TikTok民俗学が広げるバーチャル・フィールドワークの地平(11月19日配信)
photograph by Toru Otani
中国版TikTokが民俗学研究の新たなフィールドとして注目を集めている。中国では地方の中高年層もスマホを駆使し、動画を通じて自分たちの日常や文化を発信するため、短尺動画配信のプラットフォームが民俗資料の宝庫と化しているという。これを「柳田国男の世界にスマホを放り込んだような状態」と評し、その特性を活かして「TikTok民俗学」を提唱する気鋭の中国民俗学者・大谷亨氏に、新たな研究ツールとしての可能性やその取り組みについて尋ねた。
No.3|「保育」がコミュニティ運動になるとき:ベストセラー『育児の百科』著者が示唆した「社会を編み直す力」(11月5日配信)
写真提供: 「香里めざまし新聞」を復刻する会
1967年に刊行され、約160万部を売り上げたベストセラー『育児の百科』で知られる小児科医・松田道雄。彼は戦後日本の保育運動に携わり、保育を地域と結びつけ、社会を再編する市民運動として展開するビジョンを抱いていた。待機児童や保育士の待遇など、保育をめぐる問題が相次ぐ現代において、松田の思想や保育運動から何を学ぶことができるのか。松田および保育の研究に長年取り組んできた立教大学教授・和田悠氏に話をうかがった。
No.2|デジタル時代に必要な社会思想:グレン・ワイルとオードリー・タンの新著『PLURALITY(プルラリティ):協働テクノロジーと民主主義の未来』を読む(10月22日配信)
photograph by WORKSIGHT
台湾の元デジタル担当大臣オードリー・タン氏と、アメリカの天才経済学者グレン・ワイル氏。ふたりが共同で手がけ、いま世界中で注目を集めている書籍が『PLURALITY(プルラリティ):協働テクノロジーと民主主義の未来』だ。現代のテックイノベーションの停滞を打破するために、ふたりが提示する"第3の道"とは。2025年5月に邦訳版の出版が決定しているこの意欲作を、WORKSIGHTコンテンツディレクター・若林恵が読み解く。
No.1|変化することでしか積極的自由は得られない:CANTEENのクリエイティブなエコシステム(9月24日配信)
photograph by Shion Sawada
Tohji、ralph、kZmらラップアーティストのマネジメントや海外展開に加え、ファインアートの展示やギャラリー運営も行う企業「CANTEEN」。アーティストに限らず、多様なクリエイターとの連携を通じ、新たなクリエイティブを生み出すエコシステムを形成しているのが特徴だ。今年、新オフィスへ拠点を移し、さらなる成長を目指す同社の代表・遠山啓一氏に、アート/ビジネス/都市の関係性について話を聞いた。
編集部員のおすすめ記事 11選
WORKSIGHT編集員のお気に入り記事をご紹介。年間の配信記事のなかから、新たな視点や気づきをもたらした記事、思い入れの強い記事などをピックアップしました。選定理由とともにぜひご覧ください。
山下正太郎(WORKSIGHT編集長/ヨコク研究所)
▶︎ スローソーシャルメディア「Front Porch Forum」が描く未来:ビッグテックに抗う、新たなつながりの形(9月17日配信)
今年は、世界が空前の選挙イヤーを迎えたこと、そしてわたし自身が兵庫県知事選を近隣の住人として身近に感じたりと、主に政治的な面での世界あるいは世間の分極化がこれまで以上に心に刻まれた年となった。振り返れば、米国バーモント州で芽生えたローカルなソーシャルメディアの試み、中国と日本を結ぶ草の根のポップカルチャー、そして鳥の巣箱がつくり出す環境との繊細な共生といった、さまざまな事象に目が留まった。それは、わたしたちの世界に無数の「穴」──境界や分断、無関心や孤独のような空白──が広がっていることを突きつけると同時に、それを埋めようとする無数の手の存在をも静かに浮かび上がらせた。そうした手の動きに、かすかな希望の光を見いだした年だった。
秋⼭亮太(第3期 WORKSIGHT外部編集員)
▶︎ ノンクロンしよう:インドネシアのコレクティブ文化に見る、「分け合うこと」の連鎖と循環(6月25日配信)
突然ですが、あなたは「ノンクロン」してますか?ノンクロンとは、仲間とゆるくおしゃべりするインドネシアの昔ながらの慣習です。生産性や効率が重視される現代では、非生産的と見なされがちですが、そんな「無駄」からこそ新しい何かが生まれることもあるんです。実際、わたしの今年のノンクロンはWORKSIGHTの編集会議だったかもしれません。偶然や周囲の状況が織りなすダイナミズムが、ニュースレター制作にも生きています。この記事もその延長線上で生まれました!「集まることで生まれるもの」に共感したあなた、第4期の外部編集員に応募してみませんか?新たな気づきと出会いがきっと待っています!
岡島真琴(第3期 WORKSIGHT外部編集員)
▶︎ 「保育」がコミュニティ運動になるとき:ベストセラー『育児の百科』著者が示唆した「社会を編み直す力」(11月5日配信)
子どもが生まれてから仕事も家事もバタバタで、「あぁ、早く保育園に入れたい」と思う瞬間が何度もありましたが、同時に自分は保育園がどんな場所かを全然知らないことに気づきました。インタビューでは、知識人・松田道雄の思想を補助線として、「保育」の豊かさについて立教大学教授の和田悠さんが丁寧に答えてくださっています。後日、この記事をわたしと同じく「保育」に関心をもっているアーティストの友人に送ったところ、「松田道雄の『文化運動としての保育』から、自分は『ソーシャリー・エンゲイジド・アートとしての保育』を考えてみたい」とのコメント。これから「保育」を通してどんな世界を見ることができるのか、楽しみになりました。
倉持啓伍(第3期 WORKSIGHT外部編集員)
▶︎ スローソーシャルメディア「Front Porch Forum」が描く未来:ビッグテックに抗う、新たなつながりの形(9月17日配信)
「24時間365日オンラインで注目を集めるのではなく、1日10分だけ関心を引けばいい」という「スローソーシャルメディア(FPF)」の姿勢には、利益や効率に縛られない、「無理のないソーシャルメディア」を再構築するための多くのヒントが含まれています。「つながっている」状態と「つながれている」状態をどう区別すべきか、本質的なつながりを築くためには何が必要なのか、改めて考える機会となりました。
工藤沙希(ヨコク研究所)
▶︎ 次の返済日は集まって何をしよう?:“村のお母さんたち”が運営する金融組織「マザーバンク」(12月3日配信)
このマザーバンクの取材の前に、執筆を担当した大杉さんと別プロジェクトでインドネシアを訪れていました。記事中にも出てくる「ゴトン・ロヨン」という相互扶助を示すことばは、現在もインドネシアのナショナリズムと重なった自律的な協働性を示す語彙として生きている様子でした。日本では前首相がパンデミック期に強調した「自助」というワードが批判的に取り沙汰されたのも記憶に新しいところですが、大きな体制側ではなく人びとの側がこれらのことばを用いて結びつくこと自体には、「なんとかやっていく」主体的な戦術としての側面が感じられます。
大杉夏子(ヨコク研究所)
▶︎ 失踪老人からチャルメラバンドまで:TikTok民俗学が広げるバーチャル・フィールドワークの地平(11月19日配信)
今年からWORKSIGHTの編集会議に参加していますが、わたし自身を含め、恐らく編集部員が最も苦心するのが企画・事例をリサーチすること。無常くんこと大谷亨さんのTikTok民俗学実践の秘訣「検索せず、レコメンドの波に身を任せる」は目から鱗が落ちまくりでした。日本のSNS界隈では一年を通じてX(旧Twitter)のサービス変更(≒改悪)が話題になりましたが、普段利用するプラットフォームの外に一歩踏み出すと、これまで見知ってきたものとはまったく異なる文脈や出来事に出会うことができるのだと、読後大変前向きな気持ちが得られた記事でした。
野崎真惟子(コクヨ)
▶︎ ダンスとゲーム:踊れない冒険【海猫沢めろん特別寄稿】(10月8日配信)
学生時代は自ら人前で踊ったりするタイプではなかった友人の踊る姿を、大人になってからTikTokやInstagramで目にすることがあります。アイドルやインフルエンサーが「ぜひ、真似してね!」と公開する、簡単な振りに直した短尺のダンス動画の真似をする、というのは、無制限な自由表現のなかに程良い制約を生み出し、自発性を育む土壌として機能している状態なのではないでしょうか。ひとつの物事にいろいろなアプローチで触れられるようになった大人にこそ、画一的な教育のなかで幼心に感じていた苦手が克服できるのかもしれません。
海老秀比古(アシスタント・エディター/黒鳥社)
▶︎ 創造させるコード:ダニエル・テムキンにucnvが聞く、奇妙な難解プログラミング言語の世界(12月10日配信)
わざわざ理解が難しくなるように設計されたプログラミング言語があるらしい。なんだかちょっと、面白そう。執筆を担当した秋山さんのひらめきと、ふたりのアーティストの対話によって、話はウリポ、フルクサス、オノ・ヨーコにまで発展。コードとアートをめぐる、知られざる世界が浮かび上がりました。「編集プロセスのあり方がメディアの面白さを規定する」とリブート宣言で掲げたWORKSIGHTの理念を、まさに体現している記事だと思います。
小林翔(エディター/黒鳥社)
▶︎ 兼業山伏たち、深淵を覗く:オープンでボーダレスな現代修験道の世界(8月27日配信)
ドイツ出身の修験道研究者/山伏であるヨシコさんへのインタビュー。現代の山伏は9割兼業、同じ宗派のお寺であれば日本各地で修行できるから転勤も安心、といった衝撃の内容が次々に登場。一方で「山に入ることは死ぬことであり、山から出ると新しく生まれ変わる」という山伏の厳しい修行についてのエピソードも。人間社会の外にある、荘厳な自然を静粛に体感することが「日本のスピリチュアリティ」なのでは、というヨシコさんの指摘も非常に興味深いです。そして最後の質問、「山伏たちが考える一番厳しい修行」の回答は……。来年も頑張ります!
宮田文久(シニア・エディター/フリーランス)
▶︎ 次の返済日は集まって何をしよう?:“村のお母さんたち”が運営する金融組織「マザーバンク」(12月3日配信)
Zoomの画面の向こうに現れた、無数のインドネシアの女性たち。その騒めきに圧倒されることから、取材は始まった。やがて語られた、日本が戦中にもたらした土地への傷のこと。編集担当としてサポートすべく参加したリモート取材で、これほどまでに打ちのめされるとは想像だにしていなかった。アジアのことを知りたい? そのためには、まず自分の足元をきちんと見てみるべきではないのか? 画面の向こうには朗らかな笑いが満ちていたからこそ、わたしたちはそう問われているように感じたのだった。戦後80年? 何も終わっちゃいない。
若林恵(コンテンツディレクター/黒鳥社)
▶︎ ゲームにつながると、世界につながる:AbleGamers、アクセシビリティをめぐる20年間の試行(10月29日配信)
ゲームの市場規模は音楽と映画を足したよりも大きい。にもかかわらずエンタメの世界においてですらメインストリームとは見なされていない。エンタメ業界に限らず、あらゆる業界を視野に入れても、ものづくりにおける最も先進的なエコシステムをもつにもかかわらず、ビジネスがそこに学ぼうとすることは稀だ。本記事はゲームにおける「アクセシビリティ」をテーマとした記事だが、例えば以下のような一文を読み逃してはならない。「ゲームデザインの中核が、プレイヤーに選択肢を与えることであるならば、アクセシビリティに開発の早期段階から取り組むということは、おのずと、人間の五感を利用した『新たな選択肢の創出=新たなゲームデザインを生み出す』可能性に向き合うことになる」。デジタル社会のデザインをめぐる重要な論点がこの記事にはふんだんにある。
次回1月7日は、WORKSIGHT編集長・山下正太郎によるニュースレターをお届けします。お楽しみに。