ことばと世界を探究するブックリスト:WORKSIGHTプリント版21号『詩のことば』より
年に4回プリント版を発行しているWORKSIGHT。年末の特別ニュースレターとして、各号の特集テーマに合わせて選書したブックリストをプリント版より転載して3日連続でお届けいたします。第3弾となる本日は21号「詩のことば」より、詩人を通してことばと世界を探究する77冊をご紹介。
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3日連続でお届けする年末特別ニュースレターでは、これまでに発行したプリント版より、各号の特集テーマに合わせてWORKSIGHTが選書したブックリストをお届けします。
第3弾は、2023年10月刊行の『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』より、「詩人は翻訳する・編集する・読解する:ことばと世界を探究する77冊」。ことばを扱うことを生業とする詩人が「翻訳」・「編集」・「読解」に携わっている書籍77冊をセレクト。国外の詩人による作品の翻訳から、詩歌の編纂、既刊の書物を読み解くガイドとしての役割まで、多岐にわたる著作を紹介し、詩作にとどまらない詩人たちのはたらきに光を当てます。
詩人は翻訳する・編集する・読解する
ことばと世界を探究する77冊
詩人の真価は、詩作するときにだけ発揮されるのではない。他言語の作品を翻訳し、世界に散らばることばを編集し、すでに書かれた/同時代的に書かれることばを読解する。そのセンスに、わたしたちの心身は深く刺激されるのだ。広義の詩的表現ととらえうる書物やその筆者も含めて幅の広い選書でお届けする、異色の入門ブックガイド。
Compiled by WORKSIGHT
詩人は翻訳する
「詩は翻訳不可能である」と、よく語られる。しかし他ならぬ詩人たち自身が、詩をはじめとして旺盛な翻訳活動に勤しんできた。その範囲は散文、コミック、絵本まで広がっている。ことばの狭間に生きることばたち、その蠢きを感じてみよう。
(左から)3.『完全版 ピーナッツ全集』、9.『スナーク狩り』、12.『口訳 古事記』
1.『海潮音:上田敏訳詩集』上田敏・訳(新潮文庫)
清新なフランス近代詩を紹介して、日本の詩壇に根本的革命をもたらした上田敏。至難な西欧近代詩の翻訳に携わり、数々の名訳を遺した上田の上品な詩語をもって、独立した創作とも見られる訳詩集。
2.『現代語訳 方丈記』佐藤春夫・著(岩波現代文庫)
深い無常観を踏まえ、遁世の歌人・哲人の鴨長明が、現生の営みや人の性(さが)を考察した中世随筆文学の代表作。和漢混淆の名文を、格調高くわかりやすい佐藤春夫の現代語訳で味わう。
3.『完全版 ピーナッツ全集』全25巻 チャールズ・M・シュルツ・著/谷川俊太郎・訳(河出書房新社)
半世紀にわたり連載された『ピーナッツ』全作品を網羅した初の全集。収録される17,897作のうち、約2,000作はこれまで未邦訳だったもの。詩人・絵本作家の谷川俊太郎が単独で翻訳を務める。
4.『にごりえ:現代語訳・樋口一葉』伊藤比呂美、多和田葉子ほか・訳(河出文庫)
自然な筆致と深い人間描写で知られる樋口一葉の代表作を、詩人の伊藤比呂美をはじめとして、島田雅彦、多和田葉子、角田光代の現代日本文学を代表する4名が翻訳。深くて広い一葉の魅力にここから入り込もう。
5.『ウンベルト・サバ詩集〈新装版〉』須賀敦子・訳(みすず書房)
イタリアの辺境トリエステに生きた20世紀屈指の詩人、サバの初めての邦訳詩。全詩集『カンツォニエーレ』を常に傍らに置き、自身のエッセーにも時折一節を引用するほどサバにこだわり続けた訳者による翻訳。
6.『荒地』T. S . エリオット・著/西脇順三郎・訳(土曜社)
第一次大戦後の荒廃するヨーロッパ、そしてスペイン風邪の流行というパンデミックの時代を背景として1922年に発表された長編詩。モダニズム文学を代表するこの作品を、同時代の詩人・西脇順三郎による翻訳でおくる。本邦初の完訳版。
7.『アポリネール詩集』飯島耕一・訳(土曜社)
20世紀フランス詩の開拓者・アポリネールの精選詩集。シャンソンの名曲「ミラボー橋」を含む詩集『アルコール』と『カリグラム』から選取したほか、想い人・ルウへの詩篇などを収める。シュルレアリスム詩の再発見にも尽力した飯島耕一の名訳。
8.『ランボオ詩集』中原中也・訳(岩波文庫)
ランボオと中原中也、早熟早世のふたりの詩人の個性がぶつかり合って生まれた「化合物」とも言うべき訳詩集。中也は自らの詩人としての嗅覚を頼りにランボオの詩を読み解き、いわば無手勝流に見事な〈中也節〉で訳し上げてみせた。
9.『スナーク狩り』ルイス・キャロル・作/トーベ・ヤンソン・絵/穂村弘・訳(集英社)
誰も見たことがない怪物スナークを捕まえようと狩に出る9人と1匹。ルイス・キャロルによるノンセンスな冒険奇譚に、シンクロする絵をトーベ・ヤンソンが描く。そして、歌人・穂村弘が自身のスタイルで日本語に変換した魅力的な1冊。
10.『チャイナタウンからの葉書:R・ブローティガン詩集』池澤夏樹・訳(ちくま文庫)
アメリカ1960年代カウンターカルチャーのイコン的存在、ブローティガンの代表的詩集。物質文明への批評性をもちながら、ユーモアと心優しい抒情に満ちた世界。俳句のように結晶化した詩60篇を、池澤夏樹ならではの名訳で届ける。
11.『厄除け詩集』井伏鱒二・著(講談社文芸文庫)
“ハナニアラシノタトヘモアルゾ「サヨナラ」ダケガ人生ダ”の名訳で知られる「勧酒」、「復愁」「静夜思」「田舎春望」等闊達自在、有情に充ちた漢詩訳。そのほか初期詩篇や、魅了してやまぬ井伏鱒二の詩精神を映した4部構成。
12.『口訳 古事記』町田康・著(講談社)
アナーキーな神々と英雄たちが繰り広げる、〈世界の始まり〉の物語。「汝(われ)、行って、玉取ってきたれや」「ほな、行ってきますわ」奔放なる愛と野望、裏切りと謀略にみちた日本最古のドラマが、町田康の破天荒な超絶文体で生まれ変わる。
13.『ビリー・ザ・キッド全仕事』マイケル・オンダーチェ・著/福間健二・訳(白水 Uブックス)
伝説的アウトローの愛と死と暴力に満ちた生涯を、詩、挿話、写真、インタビューなどで再構成。斬新な手法で鮮烈な生の軌跡を描き、ブッカー賞作家オンダーチェの出発点となった傑作を、同じく詩人で映画監督でもある福間が日本に届ける。
(左から)14.『素晴らしきソリボ』、22.『引き出しに夕方をしまっておいた』、24.『ほら ぴったり』
14.『素晴らしきソリボ』パトリック・シャモワゾー・著/関口涼子、パトリック・オノレ・訳(河出書房新社)
カーニバルの夜、語り部ソリボはことばに喉を掻き裂かれて死ぬ──。「口承文学と記述文学の出会い」と激賞された、クレオール文学の旗手の代表作。詩人・池澤夏樹が「お喋り文体のことばに乗って、まるで”聞く小説”のようにことばが流れ込む」と日本語訳を賞賛。
15.『ブレヒトの詩:ベルトルト・ブレヒトの仕事 3』野村修・責任編集、野村修・長谷川四郎・訳(河出書房新社)
ベンヤミン、アイスラー、ヴァイルなどとの交流でも知られ、20世紀最大の演劇人であると同時に詩人・思想家であったブレヒトの詩集。ブレヒト研究者で翻訳家の野村修と小説家の長谷川四郎が日本語訳を手がける。
16.『A TASTE OF TANIKAWA 谷川俊太郎の詩を味わう』ウィリアム・I・エリオット・著/西原克政・訳(ナナロク社)
1960年代から50年以上もの間、谷川俊太郎の詩作品の英訳を続ける、同年齢のアメリカ人詩人、ウィリアム・I・エリオット。これまでに翻訳した谷川俊太郎の数百の詩から25篇を選び、英訳詩とともに「詩の味わい方」をユーモラスな文章で綴る。
17.『消えてしまった葉』チラナン・ピットプリーチャー・著/四方田犬彦、櫻田智恵・訳(港の人)
タイで「タイ社会で影響力をもつ100人の女性」に選ばれるなど、絶大の人気を誇る女性詩人の初めての邦訳詩集。映画批評家の四方田とタイ研究者の櫻田が、チラナンの紹介や、本詩集が生まれた70年代当時のタイ社会、学生運動などを詳細に述べる解説つき。
18.『裸のランチ』ウィリアム・バロウズ・著/鮎川信夫・訳(河出文庫)
クローネンバーグが映画化したことでも知られ、第二次世界大戦後のアメリカで起きた潮流、ビートニク文学のなかでも最高峰作品。麻薬中毒の幻覚や混乱した超現実的イメージが前衛的な世界へ誘うバロウズの代表作を、詩人の鮎川信夫が邦訳。
19.『青空』ジョルジュ・バタイユ・著/天沢退二郎・訳(晶文社)
スペイン戦争前夜。不吉な予兆をはらんだ青空の下で、破滅に瀕したひとりの男。詩人・天座沢退二郎の訳で、「黒いイロニー」を求め続ける孤独な青年の彷徨を、息づまる切実さで描く。危険な作家バタイユの魅力を余すところなく伝える傑作小説。
20.『言葉の秘密』エルンスト・ユンガー・著/菅谷規矩雄・訳(法政大学出版局)
現代において、言葉はなお魂の深みに呼びかける力を回復しうるか。ドイツおよびヨーロッパ精神の深層にひそむ不可視の原像を求め、始源の領国のシンボルを辿る。巻末には、邦訳を手がけた詩人でドイツ文学者の菅谷規矩雄による「訳者ノート」を収録。
21.『シルヴィア・プラス詩集』吉原幸子、皆見昭・訳(土曜社)
若くしてその才能をあらわし、30歳で悲劇的な死を遂げたことによって伝説的な存在となっている詩人、シルヴィア・プラスの詩47篇を収録。薄命の詩人の声を、同年生まれで2022年に没後20年を迎えた詩人の吉原幸子が掬い上げる。
22.『引き出しに夕方をしまっておいた』ハン・ガン・著/きむ ふな、斎藤真理子・訳(クオン)
韓国の詩人、ハン・ガンが20年余りにわたり書き続けてきた60篇を収めた詩集。巻末の翻訳家対談では、韓国における詩の受容や詩人としてのハン・ガンなど、読者を韓国の詩の世界へ誘う格好のガイドを収録。
23.『白い果実』ジェフリー・フォード・著/山尾悠子、金原瑞人、谷垣暁美・訳(国書刊行会)
悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領へと赴く。待ち受けるのは、青い鉱石、楽園への旅……翻訳を歌人の山尾悠子らが手掛けた、世界幻想文学大賞受賞の話題作。
24.『ほら ぴったり』ナオミ・ジョーンズ・文/ジェームズ・ジョーンズ・絵/環ROY・訳(ブロンズ新社)
「おなじ」も「ちがう」もどちらも楽しい! 2児の母であり、長男が保育園で友だちをつくろうと頑張る姿を見て絵本の制作を始めた著者による、友だち探しの絵本。ラッパーでビートメイカーの環ROYが邦訳を担当。
25.『手先と責苦:アルトー・コレクションIV』アントナン・アルトー・著/管啓次郎、大原宣久・訳(月曜社)
生前に書物として構想されていた著者最後の作品にして、日常性をゆるがす「残酷の演劇」の言語による極限への実践。「最も電撃的であり、彼自身が最もさらされた作品」といわれる、翻訳困難なテクストを詩的な名訳で贈る。
26.『尹東柱詩集 空と風と星と詩』金時鐘・編訳(岩波文庫)
戦争末期、留学先の日本で禁じられた母語で身もだえするように清冽なことばを紡ぎ、福岡刑務所で27歳で獄死した詩人、尹東柱の詩集決定版。韓国では知らぬ者のない国民的詩人の66篇を在日の詩人・金時鐘が選び、訳出。
27.『韓国現代詩選〈新版〉』茨木のり子・訳編(亜紀書房)
刊行から30年余り。韓国文学の真髄ともいえる簡潔で奥行き深いことばで刻まれた詩的世界は、時代を超えて心に鮮烈に響く。隣国の多彩な現代詩人12人の、発想豊かな62篇を、日本を代表する詩人・茨木のり子が編み、翻訳。2022年に新版が刊行された。
詩人は編集する
古今東西の詩歌をまとめ・並べる編者としての仕事から、 社会を見渡し諸要素をパッチワーク的に結びつける言語遊戯まで。 詩人たちは、ことばを/ことばで束ねるという創造行為に取り組んできた。 編集という観点から、詩の魅力に迫ってみる。
(左から)30.『王朝百首』、34.『珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選』、38.『通勤電車でよむ詩集』
28.『恋愛名歌集』萩原朔太郎・著(岩波文庫)
「日本近代詩の父」と称される萩原朔太郎が、『万葉集』『古今和歌集』から『新古今和歌集』までの歌集から、抒情、韻律に優れた歌を選び、恋愛を詠った名歌を選び評釈した独自の詞華集。
29.『石垣りん詩集』伊藤比呂美・編(岩波文庫)
家と職場、生活と仕事の描写のうちに根源的な雄々しい力を潜ませた詩を書きつづけ、戦後の女性詩をリードした石垣りん。その全詩篇から、詩人の伊藤比呂が手稿としてのみ遺された未発表詩や単行詩集未収録の作品33篇を含む、120篇を精選。
30.『王朝百首』塚本邦雄・著(講談社文芸文庫)
百人一首に秀歌はない──かるた遊びを通して日本人に最も親しまれる「小倉百人一首」にあえて挑戦、前衛歌人にして“現代の定家”とも称された鬼才アンソロジスト・塚本邦雄が選び抜き、自由奔放な散文詞と鋭い評釈を対置した秀歌百。
31. 『金子光晴詩集』清岡卓行・編(岩波文庫)
日本の伝統や権力支配の構造を象徴的手法で暴露、批判した金子光晴の詩集『鮫』は、昭和詩史上最も重要な作品のひとつである。代表作『こがね虫』『蛾』『落下傘』『愛情69』等から清岡卓行が秀作を選び、その全体像に迫るアンソロジー。
32.『中原中也詩集』大岡昇平・編(岩波文庫)
中原を理解することはわたしを理解することだ、と30年余りにわたって飽くなき詩人への追求を続けてきた大岡昇平。その成果を総決算すべく、中也自選の『山羊の歌』『在りし日の歌』の全篇などから本書を編集。
33.『春秋の花』大西巨人・著(講談社文芸文庫)
妥協を許さぬ小説や批評の書き手で知られる大西巨人。幼少期より古今東西の詩文を愛好してきた作家が万葉の世から現代まで幅広く、また意外性すら湛えて選んだ詩文を、季節毎に丁寧に並べ置く。
34.『珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選』永井荷風・訳(岩波文庫)
ボードレールやヴェルレーヌなどフランス近代の詩人の作品から、荷風が自らの琴線に触れた詩を選んで流麗な日本語に移した訳詩集。甘美な恋愛をうたう一方で悪や死に牽かれてゆく冷酷な心理、また享楽主義といった荷風文学の諸要素が表れている。
35.『月下の一群』堀口大學・著(講談社文芸文庫)
大正14年、第一書房から刊行され、日本の現代詩に多大な影響を与えた秀逸な訳詩集。訳者自身による度々の改訳のあと、著者満60歳、全面にわたり改訳された昭和27年白水社版。雅趣豊かな名翻訳詩。
36.『永瀬清子詩集』谷川俊太郎・選(岩波文庫)
妻であり母であり農婦であり勤め人であり、女の生きにくい世のただなかで書きつづけた詩人の生命感あふれる詩と短章。戦前から現代詩をリードしてきた〈現代詩の母〉の、つよく、やさしく、あたたかいエッセンスの作品を谷川俊太郎が厳選。
37.『沙羅の木』森鴎外・著(阿蘭陀書房、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可)
鴎外が朝開花し夕方には落花する、観潮楼の庭に咲く沙羅の木(ナツツバキ)を詠み、明治39年に『文藝界』に発表した詩「沙羅の木」。大正4年に阿蘭陀書房より刊行された詩歌集は、「譯詩」「沙羅の木」「我百首」の3部で構成。
38.『通勤電車でよむ詩集』小池昌代・編著(NHK 出版生活人新書)
多くの人と乗り合わせながら、孤独で自由なひとりの人間に戻れるのが通勤電車。古今東西の名詩をよめば、日常の底に沈んでいた詩情がたちのぼる。中原中也から谷川俊太郎、ディキンソンまで、小池昌代による選集が生への肯定感にみちたことばの世界へと誘う。
39.『訳詩集 白孔雀』西條八十・訳(岩波文庫)
歌謡曲の作詞家、童謡詩人として知られる西條八十。訳詩は語学者の仕事ではなく,詩人の仕事だとの並々ならぬ自負を抱いて訳詩集を世に問うた彼が、28歳のときに刊行した知る人ぞ知る訳詩集『白孔雀』全篇。
40.「詩人が贈る絵本」シリーズ 長田弘・訳(みすず書房)
「贈る絵本にこの本を選んだのは、この絵本を手にしたという記憶を、できるだけ多くの人と共有したかったから」。詩人の長田弘が14冊の外国語絵本を自ら邦訳し、紹介するみすず書房のシリーズ。その選書は読んだあとに世界が変わって見えるようなものばかり。
41.『旅の詩集』寺山修司・編著(立風書房)
ひとり旅がわびしかったら、故郷を思い出したかったら、旅に出たいのに出られなかったら、帰るところがなかったら、もう一度人生をやりなおしたかったら──そんなときに読む詩集。歌人で劇作家の寺山が選ぶ、ランボーから演歌までの名詩を収録。
42.『36 New York Poets:ニューヨーク現代詩36人集』 D.W.ライト・編/江田孝臣・訳(思潮社)
1920年代生まれから高校生まで、ニューヨークという都市を舞台に、さまざまなルーツ、階層の詩人たちが、ときに怒り、喜び、笑い、謳う。宮沢賢治、草野心平、金子光晴など日本の詩も研究している詩人によるアメリカのいまを伝える現代詩アンソロジー。
(左から)43.『活発な暗闇〈新装改訂版〉』、48.『短歌タイムカプセル』、51.『見えないものを集める蜜蜂』
43.『活発な暗闇〈新装改訂版〉』江國香織・編(いそっぷ社)
カーヴァーの「ぼくの船」から谷川俊太郎の「手紙」まで。小説家、児童文学作家、詩人として知られる江國香織が選び、解説を付した、ささやかで力強い59編の名詩。疲弊していく恋の詩もあれば、情熱的な愛の詩も見つかるアンサンブル。
44.「詩のおくりもの」シリーズ 矢川澄子、長谷川龍生、石垣りん、鈴木志郎康、舟崎克彦、谷川俊太郎、三木卓・編(筑摩書房)
7名の詩人が、愛の詩、青春の詩、家庭の詩、社会の詩、自然の詩、遊びの詩、生命の詩をテーマに編んだ全7冊シリーズ。30篇前後の鑑賞詩の一つひとつに編者のユニークな鑑賞文をそえたアンソロジー。
45.『折々のうた』大岡信・著(岩波新書)
過ぎてゆく四季の折々に自然の輝きをとらえ、愛する人を想いながら、人びとはその心を凝縮された表現にこめてうたい続けてきた。「日本詩歌の常識づくり」を目ざす著者が日本人の心のふるさとともいうべきことばの宝庫から秀作を選んだ1冊。
46.『ポオ 詩と詩論』エドガー・アラン・ポオ・著/福永武彦ほか・訳(創元推理文庫)
フランス象徴詩派に決定的な影響を与え、詩人としても天才の名をほしいままにした比類のない散文家ポオの全貌。巧緻精妙をきわめる「鴉」など全詩63編と、「構成の原理」をはじめ「詩の原理」「ユリイカ」の代表的詩論3編を収める。
47.『桜前線開架宣言:Born after 1970 現代短歌日本代表』山田航・編著(左右社)
若い才能が次々にデビューし、いま盛り上がっている現代短歌の世界。その穂村弘以降の全貌を描きだす。歌人・山田航が40名を選び、作品世界とプロフィールの紹介にアンソロジーも付して徹底解説。
48.『短歌タイムカプセル』東直子、佐藤弓生、千葉聡・編著(書肆侃侃房)
葛原妙子・塚本邦雄・岡井隆から吉田隼人・大森静佳まで、いま読まれるべき現代歌人115人の作品20首選。さらに編者による一首鑑賞を収録した、戦後の現代短歌を見渡す決定版アンソロジー。
49.『葛原妙子歌集』川野里子・編(書肆侃侃房)
1949年には女人短歌会を創立し、塚本邦雄からは「幻視の女王」、中井英夫からは「現代の魔女」とも称される、戦後短歌史に燦然と輝く歌人・葛原妙子。すべての歌集から1,500首を厳選し、その壮大な短歌世界を堪能する1冊。
50.『詩人キム・ソヨン 一文字の辞典』キム・ソヨン・著/姜信子・監訳/一文字辞典翻訳委員会・訳(クオン)
人は誰もが自分だけの人生ということばの辞典をもつ。詩人キム・ソヨンがハングル一文字のことばを通して人生のさまざまな時間、情景、感情を描いた私的で詩的な一文字の辞典。詩人の姜信子と8人の翻訳者が邦訳。
51.『見えないものを集める蜜蜂』ジャン=ミシェル・モルポワ・著/綱島寿秀・訳(思潮社)
終りなき書くことの地平へ、感動と思索のたゆみない変奏とともに、詩人は紙の上に無限を刻みつけていく。物語性よりも抒情性を秘めたモルポワ独自の抒情精神を内包した、珠玉の散文集。
52.『僕には名前があった』オ・ウン・著/吉川凪・訳(クオン)
ことば遊びで描く喜びと悲しみ。1982年生まれの詩人による、「人」から始まり「人」で終わる連作詩集。WORKSIGHTプリント版21号にて韓国の詩人チン・ウニョン氏とユ・ヒギョン氏の記事も担当した翻訳家、吉川凪による邦訳。
53.『あたまわるいけど学校がすき:こどもの詩』川崎洋・編(中公新書ラクレ)
こどもたちの視線ですくい上げた、214の「日常」。素直でかわいく、時にシニカルで、ちょっと可笑しい。懐かしくて新鮮な「こどもの世界」を、放送作家でもある詩人・川崎洋が案内する。
詩人は読解する
詩人は、そして狭義の詩人でなくても詩的な言語を理解する書き手は、優れた読み手であり、未知なる言語世界へ導いてくれる案内者だ。その解釈や分析は、わたしたちの現実にも小さな穴を穿ち、別様の姿を示唆してくれる。
(左から)55.『森鷗外の『沙羅の木』を読む日』、60.『詩とは何か』、64.『詩と散策』
54.『古句を観る』柴田宵曲・著(岩波文庫)
権勢に近づかず人に知られることを求めずして一生を終えた柴田宵曲。元禄時代の無名作家の俳句を集め、評釈を加えた1冊。いまも清新な句と生活に密着したわかり易い評釈が相まった滋味あふれる好著。
55.『森鷗外の『沙羅の木』を読む日』岡井隆・著(幻戯書房)
「つまりこのころ、鴎外は傍若無人だった」。本記事の「詩人は編集する」で紹介した森鴎外の『沙羅の木』を詩人の岡井隆が読む。『木下杢太郎を読む日』に続く私評論。100年前の詩歌集に寄り添う。
56.『百人一首がよくわかる』橋本治・著(講談社)
和歌のオールタイム・ベスト100が1冊でわかる。中学生から誰でもわかる、すらすら読める。『桃尻語訳 枕草子』など独特の文体で知られる橋本治の名訳で、百人一首がどこよりもわかりやすくて面白い現代語訳に。
57.『詩という仕事について』J.L. ボルヘス・著/鼓直・訳(岩波文庫)
20世紀文学の巨人ボルヘスによる知的刺激に満ちた文学入門。誰もが知っている古今東西の名著・名作を例にあげ、物語の起源、メタファーの使われ方の歴史と実際、そして詩の翻訳についてなど、フィクションの本質をめぐる議論を分かりやすいことばで展開。
58.『村上ソングス』村上春樹・著訳/和田誠・絵(中央公論新社・村上春樹翻訳ライブラリー)
ビーチボーイズ、ドアーズ、ホリデイ、モンク、スプリングスティーンらのお気に入りの楽曲を小説家の村上春樹が訳詞とエッセイで紹介。ジャズ、スタンダード、ロック29曲に、「週刊文春」の表紙絵を手がける和田誠の絵が華を添える。
59.『詩人はすべて宿命である:萩原朔太郎による詩のレッスン』萩原朔太郎・著/安智史、栗原飛宇馬・編(国書刊行会)
柔軟で鋭利な批評精神とともに、同時代の詩と詩人と、日本語に向き合ってきた「萩原朔太郎による詩の入門」と「萩原朔太郎の詩の入門」書。朔太郎が愛した詩人たちに関するエッセイと、『月に吠える』から『宿命』にいたる自作解説等を集める。
60.『詩とは何か』吉増剛造・著(講談社現代新書)
世界最高峰の詩人のひとり、吉増剛造が60年の詩業の果てに辿り着いた境地を縦横無尽に語り尽くす。世界大戦、原爆、そして3.11。数多の「傷」を閲した現代における詩の意味を問う。縦横無尽に芸術ジャンルを横断し、あらゆる芸術行為のなかに「詩」の真髄を見いだす。
61.『釋迢空ノート』富岡多惠子・著(岩波現代文庫)
戒名を筆名とした詩人・折口信夫(歌人・釋迢空)が秘していたもの、自ら葬り去ったこととは何か。日本の近代と格闘した巨人の軌跡を、その歌と小説にしかと向き合い、史料の発掘と確かな精読で描き出した渾身の評伝。
62.『詩の風景・詩人の肖像』白石かずこ・著(書肆山田)
世紀をこえる詩の海への航海、世界のさまざまな国への旅がはぐくんだ詩の交友。偉大にしてオカシイ、稚気に満ちた詩人たちの作品とポートレイトを、エピソードとともに紹介。日本と世界の詩人15人に捧げるエッセイにして珠玉のアンソロジー。
63.『詩とことば』荒川洋治・著(岩波現代文庫)
知らないうちにわたしたちは、生活のなかで詩のことばを生きている。詩とは何をするものなのか。詩を見つめる。詩を呼吸する。詩から飛ぶ。現代詩作家、荒川洋治が詩の生きる時代を照らしつつ、詩という存在について分析する。
64.『詩と散策』ハン・ジョンウォン・著/橋本智保・訳(書肆侃侃房)
散歩を愛し、猫と一緒に暮らす詩人ハン・ジョンウォンがひとり詩を読み、ひとり散歩にでかけ、日々の生活のなかで感じたことを記すエッセイ。雪の降る日や澄んだ明け方に、ひとり静かに読みたい珠玉の25編。
65.『〈うた〉起源考』藤井貞和・著(青土社)
なぜ人は「うた」を詠むのか。そもそも「うた」とは何なのか。神話や伝承、祝詞、『万葉集』や『源氏物語』などの古典、さらにはアイヌや琉球のうたうた、漢詩、俳句、そして現代短歌まで。日本文学研究者でもある著者による、これまでの考究の集大成。
(左から)66.『テンペスト』、67.『ソングの哲学』、69.『鏡のなかのボードレール』
66.『テンペスト』エメ・セゼール、W・シェイクスピアほか・著/本橋哲也・編訳/砂野幸稔ほか・訳(インスクリプト)
シェイクスピアの「テンペスト」の改作中最も重要と目される、カリブ海のマルティニク島出身の詩人エメ・セゼールによる『もうひとつのテンペスト』の日本語初訳。現代のポストコロニアル状況を参照する際の必読文献。
67.『ソングの哲学』ボブ・ディラン・著/佐藤良明・訳(岩波書店)
ディランが66の曲を選びポピュラー音楽の奥義を明かす。突っ走る詩人/世界的な文学者による音楽批評の到達点。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠。アメリカの内奥に分け入り、歌のなかに存在の意味、時の超越を透かし見る。
68.『その姿の消し方』堀江敏幸・著(新潮文庫)
留学生時代、古物市で見つけた古い絵はがきに綴られた10行の詩。やがて、1枚また1枚と、この会計検査官にして詩人であった人物の絵はがきが手元に舞い込んでくる──。20数年にわたり細くながく結ばれていく幻の「詩人」との縁を描く。
69.『鏡のなかのボードレール』くぼたのぞみ・著(共和国)
現代詩の始祖にして19世紀最大の詩人、シャルル・ボードレール。彼がカリブ海出身で混血女性の恋人に捧げた「ジャンヌ・デュヴァル詩篇」を中心に、詩人で翻訳家のくぼたのぞみが訳し直しながら、クッツェーの『恥辱』へとその思索を開いてゆく。
70.『アンダイング:病を生きる女たちと生きのびられなかった女たちに捧ぐ抵抗の詩学』アン・ボイヤー・著/西山敦子・訳(里山社)
トリプルネガティブ乳がんと診断された著者が自らの経験を書きながら、スーザン・ソンタグ、オードリ・ロード、キャシー・アッカーなど、乳がんで命を落とした女性作家らが乳がんをいかに「書いたか/書けなかったのか」という歩みを辿り、米国の資本主義医療の欺瞞を突く。
71.『土方巽頌:〈日記〉と〈引用〉に依る』吉岡実・著(筑摩書房)
最晩年の土方に師事し、土方のことばを日々浴びていた吉岡実。詩人の日記と友人の証言をもとに傑作「聖あんま断腸詩篇」へ収斂していく、前衛詩人と暗黒舞踏家の20年にわたる稀有な交流が生んだ書きおろし追悼篇。
72.『ジョイス論/プルースト論:ベケット 詩・評論集』サミュエル・ベケット・著/高橋康也ほか・訳(白水社)
『フィネガンズ・ウェイク』について書かれた世界初の本格的なジョイス論と、『失われた時を求めて』の本質を鋭くえぐるプルースト論。ベケットの出発点となった二大論文に、美術批評や詩作ほかを収録。
73.『アメリカの心の歌〈expanded edition〉』長田弘・著(みすず書房)
現代アメリカの精神を最もよくうつしてきた歌は何か。それは国、故郷、生きる場所、そして生き方を歌った歌=アメリカーナである。大きな変動を経験した社会で、歌うべき自分の歌を見つけた人びとの姿から、歌に遺されたその感受性の豊かさに迫る。
74.『韓国文学の中心にあるもの』斎藤真理子・著(イースト・プレス)
なぜ、韓国文学はこんなに面白いのか。世界の歴史が大きく変わっていくなかで、新しい韓国文学がパワフルに描いているものは何なのか。その鍵は「戦争」にある。ブームの牽引者でもある著者が、日本との関わりとともに詳細に読み解き、その面白さ、魅力を凝縮する。
75.『弓と竪琴』オクタビオ・パス・著/牛島信明・訳(岩波文庫)
「詩」とは何か。ポエジーとは何か。詩を構成する要素である言語、リズム、韻文・散文の弁別特徴、そしてイメージとは。驚嘆すべき博識と犀利な知性、研ぎ澄まされた詩的直観と洞察力に裏付けられた、ノーベル賞作家パスによる生涯をかけた一大詩論。
76.『詩の波 詩の岸辺』松浦寿輝・著(五柳書院)
「唖然とする出来事」の前で途方にくれる詩人たちの悪戦苦闘。それでも、詩は生き残る。啓蒙的な講演を行ったり、新聞に時評を書いたりといった詩人たちの活動の記録を、松浦寿輝が読み解く。
77.『危機を生きる言葉:2010年代現代詩クロニクル』野村喜和夫・著(思潮社)
危機を生きる言葉、あるいは、言葉を生きる危機。詩人はたとえ危機の時代にあろうとも、言葉を生きる。2011年〜2018年の詩的時評「Chronicle」に、石原吉郎から小笠原鳥類までを論じた詩人論「Poets」を交差させた、2010年代詩のオデュッセイア。
【配信スケジュール】
第1弾:それぞれのフィールドノート:19号特集「フィールドノート 声をきく・書きとめる」より(12/29配信)
第2弾:記憶をめぐる本棚:20号特集「記憶と認知症」より(12/30配信)
第3弾:詩人は翻訳する・編集する・読解する:21号特集「詩のことば」より(12/31配信)
Photo by Hiroyuki Takenouchi
『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』は、全国書店および各ECサイトで販売中です。書籍の詳細はこちらをご覧ください。
【目次】
◉巻頭言・詩を失った世界に希望はやってこない
文=山下正太郎(WORKSIGHT編集長)
◉花も星も、沈みゆく船も、人ひとりの苦痛も
韓国詩壇の第一人者、チン・ウニョンが語る「詩の力」
◉ソウル、詩の生態系の現場より
ユ・ヒギョンによる韓国現代詩ガイド
◉そこがことばの国だから
韓国カルチャーはなぜ詩が好きなのか
語り手=原田里美
◉ベンガルに降る雨、土地の歌
佐々木美佳 詩聖タゴールをめぐるスケッチ
◉「言葉」という言葉も
大崎清夏 詩と随筆
◉ふたつの生活詩
石垣りんと吉岡実のことば
文=畑中章宏
◉紙の詩学
建築家・詩人、浅野言朗から見た詩集
◉詩人は翻訳する・編集する・読解する
ことばと世界を探究する77冊
◉しっくりくることばを探して
古田徹也との対話・ウィトゲンシュタインと詩の理解
【書籍詳細】
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』
編集:WORKSIGHT編集部
発行日:2023年10月20日(金)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
ISBN:978-4-7615-0928-6
定価:1800円+税