「未知なる声」を聴くブックリスト:WORKSIGHTプリント版19号『フィールドノート』より
年に4回プリント版を発行しているWORKSIGHT。年末の特別ニュースレターとして、各号の特集テーマに合わせて選書したブックリストをプリント版より転載して3日連続でお届けいたします。第1弾となる本日は19号「フィールドノート 声をきく・書きとめる」より、"未知なる声"を聴くための60冊をご紹介。
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3日連続でお届けする年末特別ニュースレターでは、これまでに発行したプリント版より、各号の特集テーマに合わせてWORKSIGHTが選書したブックリストをお届けします。
第1弾は、2023年4月発売の『WORKSIGHT[ワークサイト]19号 フィールドノート 声をきく・書きとめる Field Note』より、「それぞれのフィールドノート:未知なる声を聴く傑作ブックリスト60」。発せられているのにきこえていない「声」をきき、記録し、伝えていくことの困難に向き合った著者たちが、書籍として形にした傑作を”それぞれのノート”としてご紹介。必読の60冊を都市の声、遠くの声、近くの声、人の声、ものの声、内なる声の6つのテーマで選書しました。
それぞれのフィールドノート
未知なる声を聴く傑作ブックリスト60
世界はわたしたちが探索すべく開かれた「フィールド」だ。都市へ、未踏の地へ、日常のなかへ、人へ、ものへ、心の内へ。それぞれのフィールドで声にならない声を採集した傑作「ノート」60選。
Compiled by WORKSIGHT
都市の声
都市は近現代人の暮らしを規定する「自然」だ。その複雑な生態系のなかに潜りこみ、秘められた驚異を探索した都市観察者たちの眼差し。
(左から)5.『超芸術トマソン』、6.『スケートボーディング、空間、都市:身体と建築』、9.『たのしい路上園芸観察』
1.『パサージュ論』1~5 ヴァルター・ベンヤミン(今村仁司ほか・訳/岩波文庫)
19世紀パリに現れたパサージュをはじめとする物質文化に目を凝らし、人間の欲望や夢、ユートピアへの可能性に取り組んだベンヤミンの生涯をかけた労作。19世紀から20世紀におけるパリの町並みの変遷や歴史を考察する。
2.『アウステルリッツ〈新装版〉』W・G・ゼーバルト(鈴木仁子・訳/白水社)
帝国主義の遺物である駅舎、裁判所、要塞、病院、監獄の建物を巡る建築史家のアウステルリッツが、本書の語り手である〈私〉に近代における暴力と権力の歴史を語る異色の小説。
3.『マラケシュの声:ある旅のあとの断想』エリアス・カネッティ(岩田行一・訳/法政大学出版局)
話しことば、叫び声、つぶやき、歌など、モロッコの古都マラケシュの人々の神話的・呪術的に響きあう聴覚上の世界に、失われた「原初のことばの顕現」と「人間の魂の始原の郷国」を探りだす紀行文学的文明論。
4.『新版 大東京案内』上・下 今和次郎・編纂(ちくま学芸文庫)
モダンボーイ、モダンガールが闊歩し都市化が進む昭和4年の東京の生活と風俗を、都市フィールドワークの先駆者・今が活写した名著。上巻には交通機関や官庁、デパート、盛り場、遊興、味覚、下巻には郊外生活、特殊街、花柳街、旅館と下宿、細民の生活などを収録。
5.『超芸術トマソン』赤瀬川原平(ちくま文庫)
「超芸術トマソン」と命名された、不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物。街歩きに新しい楽しみを、表現世界に新しい衝撃を与えた”都市の幽霊”、トマソンの全貌。
6.『スケートボーディング、空間、都市:身体と建築』イアン・ボーデン(齋藤雅子ほか・訳/新曜社)
一見子どもの遊びと思われがちなスケートボーディングは、躍動する身体による建築批判であり、都市空間の再創造である。WORKSIGHTプリント版19号でも取材したイアン・ボーデンによる、10カ国を超える国々で翻訳・紹介された話題作。
7.『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル(小野寺健・訳/岩波文庫)
人間らしさとは何かと生涯問いつづけた作家・オーウェルのデビュー作。1927年から3年間の自らの体験をもとにパリ貧民街のさまざまな人間模様やロンドンの浮浪者の世界を描くルポルタージュ。
8.『モグラびと:ニューヨーク地下生活者たち』ジェニファー・トス(渡辺葉・訳/集英社)
ニューヨークの地下。張り巡らされた下水道や地下鉄のトンネルや駅、そしてさらに深い地中に棲む地下生活者たち。貧困、薬物中毒、家庭崩壊、犯罪……様々な理由から地上を拒絶した彼らの実態に、気鋭の女性記者が迫る。
9.『たのしい路上園芸観察』村田あやこ(グラフィック社)
植木鉢ストリート、植木鉢の花畑、植物壁画、異次元プランツ……「路上園芸学会」を名乗り、街の住人たちが思い思いに楽しむ園芸活動を10年以上にわたり観察してきた著者による、いつもの散歩道をちょっと楽しくする路上園芸観察のすすめ。
10.『明治風物誌』柴田宵曲(ちくま学芸文庫)
俳人、歌人、随筆家、編集者と多才な著者が、文学作品と作家のエピソードを織り交ぜながら明治の事物習俗を綴った珠玉の随筆。人力車、サーカス、競馬、水族館、赤帽、半熟玉子、新聞広告など、97の主題によって明治の市井生活に光を当てる。
遠くの声
日常を遠く離れ、未知なる土地で、未知なる声に出会う。遠くの声を探ることで自分自身の当たり前を逆照射する、人類学的旅路。
(左から)14.『Voix』、19.『ハリー・スミスは語る:音楽/映画/人類学/魔術』、20.『ルポ川崎』
11.『幻のアフリカ』ミシェル・レリス(岡谷公二ほか・訳/平凡社ライブラリー)
1931-33年のダカール=ジブチ、アフリカ横断調査団に帯同したレリスによる公的記録。植民地主義の暴力を告発する私的吐露で客観性を裏切る記述のあり方が、ポストコロニアリズム等の現代的文脈で絶対参照される奇跡の民族誌。
12.『西太平洋の遠洋航海者:メラネシアのニュー・ギニア諸島における、住民たちの事業と冒険の報告』ブロニスワフ・マリノフスキ(増田義郎・訳/講談社学術文庫)
ソウラヴァ(首飾り)とムワリ(腕輪)をそれぞれ逆方向に贈与していく不思議な交易「クラ」。物々交換とは異なる、魔術であり、芸術であり、人生の冒険であるクラ交易から、人類学の金字塔・マリノフスキが原始経済の意味を問いなおす。
13.『聲』川田順造(ちくま学芸文庫)
アフリカの無文字社会のフィールドワークを基点に、日本・ヨーロッパ諸語における擬声語、擬態語、語り、民話等の声の役割を考察。声から近代社会の個性(ペルソナ)の裡の姿を浮かび上がらせるエッセイ。
14.『Voix』吉増剛造(思潮社)
フランス語で「声」を意味するVoix。Reborn-Art Festival 2019への参加をきっかけに石巻の鮎川に通い続け、金華山と海を望むホテルの一室《room キンカザン》の窓ガラスに直接詩を書きつけて推敲した詩を収録。
15.『集落への旅』原広司(岩波新書)
世界には地域に根ざし自然と一体化した実に多様な集落がある。メキシコの木柵の村、イラクの家族島集落、アフリカのサバンナの集落などを訪れ、豊かな自然環境とその環境に適応してきた人びとの暮らしのかたちを見た旅の記録。
16.『日本の島々、昔と今。』有吉佐和子(岩波文庫)
北は天売・焼尻へ、南は波照間・与那国へ飛び、種子島では鉄砲伝来とロケット基地を、隠岐ではイカ釣船の水揚や流人の歌を島誌に探る。1980年当時の領有権、日韓大陸棚、200海里問題など当時の議題を追った渾身のルポ。
17.『アラビア・ノート:アラブの原像を求めて』片倉もとこ(ちくま学芸文庫)
定住は退廃につながると考える「移動哲学」とは何か。砂漠の民のなかに飛び込んで、アラブの家族と寝食をともにし、厳しい自然と戦いながら生きる人々の考え方を堀り下げたアラブ文化論の名著。
18.『辺境を歩いた人々』宮本常一(河出文庫)
江戸時代から明治にかけて、積極的に日本の辺境を歩き、風俗地誌を研究した民俗学の先駆者の4人(近藤富蔵・松浦武四郎・菅江真澄・笹森儀助)。宮本常一のガイドで彼らの事跡と生涯を辿る。
19.『ハリー・スミスは語る:音楽/映画/人類学/魔術』ラニ・シン編(湯田賢司・訳/カンパニー社)
画家、映像作家、音楽学者、人類学者、魔術師、詩人、言語学者、哲学者、錬金術師、蒐集家、浮浪者──20世紀アメリカが生んだ最狂の野生思考=ハリー・スミスが自身を語る。1965年から1988年にかけての7つのインタビューを収録。
20.『ルポ川崎』磯部涼(新潮文庫)
音楽ライターの磯部涼による川崎のルポルタージュ。貧困、ヤクザ、殺し、薬物と隣り合わせの川崎で生きるラッパーら地元の若者の証言を収録。負の連鎖を断ち切ろうとする人びとの声に耳を傾け、街の姿を活写する。
近くの声
日常の暮らしにこそ、異なる声は潜んでいる。馴染んでしまっている景色の背後に隠された沈黙。それぞれの小さな声、固有の歴史。
(左から)22.『世界は五反田から始まった』、24.『家(チベ)の歴史を書く』、29.『無学日記』
21.『小さき者たちの』松村圭一郎(ミシマ社)
水俣、天草、須恵村……。文化人類学者の松村圭一郎が、故郷・熊本の暮らしの記録から、人びとが経験してきた歴史を掘り下げる。小さき者たちの声を拾い、紡ぐことで、近代国家が民の暮らしにもたらした歪みの根源が映し出されていく。
22.『世界は五反田から始まった』星野博美(ゲンロン叢書)
30年前に手渡された、祖父が残した手記。戦時下を必死で生きた祖父の目を通して、タワーマンションの光景が町工場の記憶と重なり合う。大宅壮一ノンフィクション賞作家が描いた、東京の片隅から見た等身大の戦争と戦後。
23.『ごろごろ、神戸。』平民金子(ぴあ)
神戸市広報課のホームページに2年にわたって掲載され話題となった、平民金子の連載が書籍化。“ごろごろ”とベビーカーを押しながら歩く神戸の風景を自らの写真と文章で描く、異色の街歩き子育てエッセイ。
24.『家(チベ)の歴史を書く』朴沙羅(ちくま文庫)
「自分の親戚がどうやら『面白い』らしいことは知っていた」。社会学者である著者は、済州島から日本へ来た親族にインタビューする。個人の人生をどのように歴史として残せるのかを自問しながら書いた、ある家(チベ)の歴史。
25.『病気と治療の文化人類学』波平恵美子(ちくま学芸文庫)
民俗医療や治療儀礼、宗教・民間信仰・シャーマニズムはどのように病気とかかわってきたのか。病気に対し意味づけを行ってきた民族誌的事例から、文化と社会における病気を考える。「医療人類学」を切り拓いた著者による画期的著作。
26.『ヤンキーと地元:解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』打越正行(筑摩書房)
暴走族のパシリから始まった、沖縄でのフィールドワーク。10年以上彼らと関わってきた社会学者による、過酷な仕事や生活スタイルのなかで沖縄を生き抜いてきた若者たちの記録。
27.『「家庭料理」という戦場:暮らしはデザインできるか?』久保明教(コトニ社)
ある先輩の「私、結婚したら毎日違う料理を作るんだ!」ということばをきっかけに、文化人類学者は家庭料理というフィールドを選ぶ。料理研究家たちの数々のレシピの調理と実食を繰り返し、家庭料理をめぐる問いや倫理に切り込んでいく。
28.『現実入門:ほんとにみんなこんなことを?』穂村弘(光文社文庫)
「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」のほむらさん・42歳が、必死の思いで数々の”現実”に立ち向かう。献血、モデルルーム見学、占い、合コンなどに参加し、身を削って経験値をあげていく様を綴った痛快エッセイ。
29.『無学日記』池田福重(共同文化社)
与論島で太古の昔から伝えられ、島びと自身が受け継いできた生き様と島ことばの唄。その精神世界には自然や目には見えない世界とのつきあい方の知恵が詰まっている。学校では習えない「無学」の記憶。
30.『PARK CITY』笹岡啓子(インスクリプト)
地元で生まれ育った写真家が撮る、「公園都市」広島の昼と夜。2001年より10年にわたって広島平和記念公園とその周辺を撮影。がらんとした風景と通り過ぎていく時間を観察することで、何が見えてくるのか。
人の声
人の声は聴こえるようで聴こえない。大文字の「社会」のなかに埋もれた「他者」と出会い、じっと耳を傾ける。「聴く」という困難な実践。
(左から)31.『あなたを選んでくれるもの』、37.『移民たち:四つの長い物語〈新装版〉』、38.『あいたくてききたくて旅にでる』
31.『あなたを選んでくれるもの』ミランダ・ジュライ(岸本佐知子・訳/新潮クレスト・ブックス)
映画の脚本執筆に行き詰まった著者は、フリーペーパーに売買広告を出す人々を訪ね、話を聞いてみた。それぞれの「もの」が、一人ひとりの生活が、訴えかけてきたこととは。
32.『まっくら:女坑夫からの聞き書き』森崎和江(岩波文庫)
「女も男と同じごと仕事しよったですばい」。筑豊の地の底から石炭を運び出す女性たちの声を聞き取り、その逞しい生き様を記録した、詩人・森崎和江の1961年のデビュー作。
33.『塩を食う女たち:聞書・北米の黒人女性』藤本和子(岩波現代文庫)
アフリカから連れてこられた黒人女性たちは、いかにして狂気に満ちたアメリカ社会を生き延びてきたのか。1980年代にアメリカに移住した著者が聞いた、彼女たちの歴史的体験、記憶、そして生きるための力。
34.『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(三浦みどり・訳/岩波現代文庫)
100万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦った、第二次世界大戦下のソ連。500人以上の従軍女性にインタビューし戦争の真実を明らかにした、ノーベル文学賞作家の主著。
35.『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』Ⅰ・Ⅱ ポール・オースター編(柴田元幸ほか・訳/新潮文庫)
「普通の」人々が記憶のなかに温めていた、ちょっと「普通でない」実話たち。もとはラジオ番組のために全米から募った数々のエピソードを、小説家で詩人のオースターが精選。ときにほろっとさせられ、ときに笑いがこみ上げる180篇。
36.『果報者ササル:ある田舎医者の物語』ジョン・バージャー、ジャン・モア(村松潔・訳/みすず書房)
ブッカー賞作家ジョン・バージャーと写真家ジャン・モアが、ひとりの田舎医者の姿を通して人間と医療の本質を浮彫にした傑作ドキュメント。ササル医師が村人との間に築いた稀有な関係性を、ふたりのアーティストが透徹した視線で記録する。
37.『移民たち:四つの長い物語〈新装版〉』W・G・ゼーバルト(鈴木仁子・訳/白水社)
異郷に暮らし、過去の記憶に苛まれる4人の男たちの生と死。語り手の〈私〉は遺されたわずかの品々をよすがに、長い期間をおいて自ら破滅の道を辿る移民たちの生涯を辿りなおす。
38.『あいたくてききたくて旅にでる』小野和子(PUMPQUAKES)
これまで50年にわたり東北の村々を訪ね、民話を乞うてきた民話採訪者・小野和子。民話とともに語られた「民の歴史」、抜き差しならない状況から生まれた「物語の群れ」を旅で得た実感とともに編んだ全18話。
39.『詩の中にめざめる日本』真壁仁(岩波新書)
詩というかたちで、日本の民衆が自己を発見し社会を見いだした記録がここにある。たくさんの書き手が広島からベトナム戦争まで多彩な主題を扱い、ことばの技術ではなく、心の葛藤によって読む人を感動させる。
40.『知識欲の誕生:ある小さな村の講演会1895-96』アラン・コルバン(築山和也・訳/藤原書店)
フランスの小村に暮らす農民や手工業者たちは、どのようにして地理、歴史、科学の知見を得、道徳や公共心を学んでいたのか。“感性の歴史家”コルバンが、ひとりの教師による講演記録のない講演会を、口調まで克明に甦らせる画期的問題作。
ものの声
ものは語らない。なのに、それぞれ固有の声をもっている。それはいったい何を伝えようとしているのか。ものが教えてくれる、世界の広がり。
(左から)41.『石が書く』、46.『マルグリット・デュラスの食卓』、50.『モンテレッジォ:小さな村の旅する本屋の物語』
41.『石が書く』ロジェ・カイヨワ(菅谷暁・訳/創元社)
風景石、瑪瑙、セプタリアなど、特異な模様をもつ石は人びとの想像力にいかに働きかけてきたのか。石の模様を通して「美しさ」の根源に迫る、知の巨人・カイヨワによる稀有な論考。
42.『長物志:明代文人の生活と意見』1〜3 文震亨(荒井健ほか・訳注/東洋文庫/平凡社)
長物志、すなわち無用の長物についての覚書。16世紀末に江南文化の中心蘇州の名門に生まれた著者が、文人の衣食住と趣味・嗜好の実際を、身の回りのものをとおして細密に描きだす。
43.『鳥類学フィールド・ノート』小笠原鳥類(七月堂)
生き物たちの安全で安心な楽園はどこだ。生物多様性を主題とした現代詩を多く発表する詩人・小笠原鳥類の最新刊で、入門書ともいえる1冊。詩人の榎本櫻湖が編集や装丁を手がける。
44.『ウィルソン氏の驚異の陳列室』ローレンス・ウェシュラー(大神田丈二・訳/みすず書房)
ロサンゼルスに実在するジェラシック・テクノロジー博物館。屍に釘のような菌を生やす大きな蟻、人間の角、トーストの上で焼かれたハツカネズミ……。どれが本物なのかわからない奇妙なコレクションは、驚異の感覚と人間の真の想像力を呼び起こす。
45.『フラッター・エコー:音の中に生きる』デイヴィッド・トゥープ(little fish・訳/DU BOOKS)
WORKSIGHTプリント版19号でインタビューを実施した、ジャンルレスなミュージシャンにして、世界で最もボーダーレスな音楽評論家、デイヴィッド・トゥープ。自身のキャリア、作品、音楽のパートナーについて振り返る、その活動記録の集大成。
46.『マルグリット・デュラスの食卓』マルグリット・デュラス(樋口仁枝・訳/悠書館)
料理好きのデュラスがノートに書きつけていたレシピの数々。レシピを通して、「書くこと」と同じくらい「創る人」であり続けた小説家のみずみずしい感性と気どらない素顔が浮かび上がる。
47.『マツタケ:不確定な時代を生きる術』アナ・チン(赤嶺淳・訳/みすず書房)
マツタケをアクターとして、人間と人間以外のものの関係性、種間の絡まりあいをつぶさに論じたマルチスピーシーズ民族誌。コモンズの可能性や学問研究のあり方までを射程に入れ、人間中心主義を相対化した、鮮やかな人類学の書。
48.『焼夷弾を浴びたシャボテン』龍膽寺雄(STANDARD BOOKS/平凡社)
戦前、突如文壇から姿を消し、戦後、サボテンの栽培研究で知られるようになった小説家・龍膽寺雄。サボテンを通じて彼が示した「荒涼の美学」「寂寥の哲学」や独自の科学観を精選。
49.『ベイルート961時間(とそれに伴う321皿の料理)』関口涼子(講談社)
戦争の傷跡が色濃く残る街で、翻訳家・作家の著者は人々が語る食べ物の話を聞く。カタストロフを生き抜く食の力と、心揺さぶる街の記憶。五感のアーカイブとしての料理を描く珠玉のルポルタージュ・エッセイ。
50.『モンテレッジォ:小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子(文春文庫)
何世紀にもわたり村の人が本の行商で生計を立て、籠いっぱいの本を担いでイタリア中を旅したモンテレッジォ。わずかに生存している子孫たちを追いかけ、消えゆく話を聞き歩き書かれた奇跡のノンフィクションは、本と本屋の原点を示してくれる。
内なる声
自分のなかに潜む、声にならない声。わたしのなかにわたしの知らない他者がいる。この世の最も謎めいたフィールドは、「自分自身」なのかもしれない。
(左から)52.『言葉と歩く日記』、54.『リヒテンベルクの雑記帳』、59.『記憶する体』
51.『思考の手帖:ぼくの方法の始まりとしての手帖』東宏治(鳥影社)
WORKSIGHT19号で本誌編集長が訪れた「手帳類図書室」オーナーの志良堂正史さんが、手帳類のコレクションを始めるきっかけとなった書籍。実務的なメモではなく、自分自身の思考の断片を書き残すものとしての「手帖」術が綴られる。
52.『言葉と歩く日記』多和田葉子(岩波新書)
各地を旅する日常は、言葉と出逢い遊び、言葉を考え生みだす、まさに言葉と歩く日々。日独2カ国語で書くエクソフォニー作家による「自分の観察日記」を通して、作家の思考を「体感」させる必読の1冊。
53.『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』トマス・エスペダル(枇谷玲子・訳/河出書房新社)
自分の人生を、主導権をもって歩き続けるとはどういうことか。北欧における“世界文学の道先案内人”が、作家たちのことばに触れながら思索を深める渉猟の記録。現代ノルウェー文学を牽引するエスペダルの金字塔的作品。
54.『リヒテンベルクの雑記帳』ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク(宮田眞治・訳/作品社)
18世紀後半に生き、今日、西洋史上最も有名な格言家とされている実験物理学者のリヒテンベルク。死後に発見され、ニーチェ、ウィトゲンシュタイン、フロイト、ベンヤミンらに影響を与えたとされるた大量のノートには何が書かれていたのか。
55.『迷うことについて』レベッカ・ソルニット(東辻賢治郎・訳/左右社)
わたしたちはいつだって迷っている。ソルニットが自身の人生と、アメリカの歴史と文化に視線を向け、ベンヤミンやヴァージニア・ウルフらとともに、迷うことの意味と恵みを探る。
56.『カフカノート』『カフカ/夜の時間:メモ・ランダム』高橋悠治(みすず書房)
カフカはピアニスト高橋悠治をささえる影の思索者。構成・作曲を手がけた舞台「カフカノート」にむけて書かれたスコア、対訳台本、制作ノートを通して、高橋悠治の書き方、音楽のつくり方の秘密が明かされる。
57.『〈私〉記から超〈私〉記へ:ベンヤミン・コレクション 7』ヴァルター・ベンヤミン(浅井健二郎・編訳、土合文夫ほか・訳/ちくま学芸文庫)
ひとりの思考者の“私”が、もがきながら、超“私”的問題をリトマス試験紙として、位置測定と方向確認を繰り返し試み続ける。20世紀を代表する評論家ベンヤミンの個人史から激動の時代精神を読む。
58.『詩と散策』ハン・ジョンウォン (橋本智保・訳/書肆侃侃房)
散歩を愛し、猫と一緒に暮らす詩人ハン・ジョンウォンがひとり詩を読み、ひとり散歩にでかけ、日々の生活のなかで感じたことを記すエッセイ。雪の降る日や澄んだ明け方に、ひとり静かに読みたい珠玉の25編。
59.『記憶する体』伊藤亜紗(春秋社)
「その人のその体らしさ」はどのようにして育まれるのか。視覚障害、吃音、認知症、幻肢痛などをもつ人の11のエピソードを手がかりに、体にやどる重層的な時間と知恵について考察する、ユニークな身体論。
60.『「わたし」とは何だろう:絵で描く自分発見』岩田慶治(講談社現代新書)
わたしとわたしの周りの世界とは別のものなのか。文化人類学者が身体の養生のために始めた散歩をきっかけに、対象として世界を捉える知を捨て、じかに自然に感応しつつ、山川草木のなかに自分という風景を描き出す。
【配信スケジュール】
第1弾:それぞれのフィールドノート:19号特集「フィールドノート 声をきく・書きとめる」より(12/29配信)
第2弾:記憶をめぐる本棚:20号特集「記憶と認知症」より(12/30配信)
第3弾:詩人は翻訳する・編集する・読解する:21号特集「詩のことば」より(12/31配信)
Photo by Kaori Nishida
『WORKSIGHT[ワークサイト]19号 フィールドノート 声をきく・書きとめる Field Note』は、全国書店および各ECサイトで販売中です。書籍の詳細はこちらをご覧ください。
【目次】
◉巻頭言・ノートという呪術
文=山下正太郎(WORKSIGHT編集長)
◉スケーターたちのフィールドノート
プロジェクト「川」の試み
◉スケートボードの「声」をめぐる小史
文化史家イアン・ボーデンのまなざし
◉ノートなんて書けない
「聴く・記録する・伝える」を人類学者と考えた
松村圭一郎・足羽與志子・安渓遊地・大橋香奈
◉人の話を「きく」ためのプレイブック
哲学者・永井玲衣とともに
◉野外録音と狐の精霊
デイヴィッド・トゥープが語るフィールドレコーディング
◉それぞれのフィールドノート
未知なる声を聴く傑作ブックリスト60
◉ChatGPTという見知らぬ他者と出会うことをめぐる混乱についての覚書
文=山下正太郎
【書籍詳細】
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]19号 フィールドノート 声をきく・書きとめる Field Note』
編集:WORKSIGHT編集部
発行日:2023年4月27日(木)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
ISBN:978-4-7615-0925-5
定価:1800円+税