「記憶」から見つめる未来:WORKSIGHTプリント版・20号「記憶と認知症 Memory/Dementia」明日8月25日刊行!【特別ニュースレター】
昨今世界各地で叫ばれている、認知症や記憶をめぐる社会問題。幾多の課題に取り組むため、わたしたちはいま、福祉領域や集団での記憶の共有において大きな発想の転換を迫られている。WORKSIGHTプリント版・20号では革新的なアプローチを実践する認知症や精神疾患のケアの現場や美術館、ルネサンス期の"記憶術"などを取材。「記憶と認知症」をテーマに来るべき社会のヒントを探ります。
Photograghs by Hiroyuki Takenouchi
週刊のニュースレターを中心に、自律協働社会のゆくえを探ってきたWORKSIGHT。明日8月25日にプリント版『WORKSIGHT[ワークサイト]20号 記憶と認知症 Memory/Dementia』を刊行いたします。
わたしたちが個人として一貫性を保ち、集団のなかで物語を共有し、秩序ある社会生活を営むために不可欠な「記憶」。しかし近年、認知症をもつ人の世界的な増加や、国家・地域社会の衰退による集団的記憶の継承の難しさなど、記憶をめぐる問題が世界のあらゆるところで起きています。そのような社会問題をめぐるパラダイムシフトが急務となるなか、オランダやフランスでは従来の形とは異なるアプローチが試みられ、世界的な評価を集めています。
その現場を確かめるため、本誌編集長・山下正太郎は現地へ渡り、福祉施設やキーパーソンへの取材を敢行。第73回ベルリン国際映画祭で金熊賞〈最高賞〉を受賞したドキュメンタリー『アダマン号に乗って』でも知られ、日本メディアとしては初取材となるデイケアセンター「サントル・ド・ジュール・ラダマン」のほか、居住者の自律性を重んじ、監視・管理ではなく共生を図ろうとする福祉施設、学生が立ち上げた自律分散的な介護ネットワークのスタートアップ、"市民の記憶"として収蔵庫を公開するユニークな美術館などを訪ねました。5日間の道中で、施設運営者へのインタビューや入居者とのやりとりから思索した記憶とアイデンティティ、共通性を失ったときに見えてくるコミュニケーションの本質、そして、来るべき社会のイメージとは。4万5000字に及ぶ充実のレポートでお届けします。
さらに、ルネサンス期の「記憶術」の研究者である桑木野幸司氏、レバノン内戦の負の遺産についての論文を音楽作品へと昇華した音楽家・建築史家メイサ・ジャラッド氏へのインタビューを掲載。ブックガイド「記憶をめぐる本棚」では、「ケアと記憶」「記憶の技術」など6つのテーマごとに、記憶のあり方への理解を深める書籍を紹介しています。
これまでにも「植物」「死」「他者の声」など、自分とは異なる存在との関係性を見つめることによって、複雑化と不安定化を極めていく現代から新しい社会像のありようを模索してきたWORKSIGHTの最新号。ぜひお手にとってご覧ください。
目次に沿って、本号の内容をご紹介いたします。
◉記憶をめぐる旅の省察
文=山下正太郎(WORKSIGHT編集長)
本誌編集長がオランダとフランスを訪れ、これまでの方法から変革を試みる認知症や精神疾患のケアの現場などを取材。認知症により記憶が薄れゆく個人にとって幸せな社会、長らく監視と管理の対象とされてきた人びとと社会が再統合するための倫理やシステム、国家や市民共同体におけるアーカイブの存在意義などを探りつつ、自分と他者との「非共通性」からコミュニケーションの本質を見つめ直す。
ザ・ホーグワイク|認知症居住者が自律協働する「町」
マフトルド・ヒューバー|ポジティブヘルスという新たな「健康」指標
エミール|ケアの技法を学生に授けるスタートアップ
デポ・ボイマンス・ファン・ベーニンゲン|アート・収蔵庫・市民の記憶
ヴィラージュ・ランデ・アルツハイマー|認知ケアを社会に開くために
サントル・ド・ジュール・ラダマン|セーヌに浮かぶ開かれたデイケアセンター
◉記憶・知識・位置情報
桑木野幸司・ルネサンス期の「記憶術」が教えること
ルネサンスの情報爆発の時代、人々は情報をイメージ化し”記憶の器”に収めることで知識を蓄え、独創的なアイデアを生み出していた。当時の情報環境を振り返りながら提起する、昨今の”ファスト教養”やAI、結果にたどり着くまでのプロセスを大幅に短縮するインターネット検索への問いとは。「記憶術」を研究する桑木野幸司氏へインタビュー。
◉記憶をめぐる本棚
記憶の技術、「わたし」の記憶、ケアと記憶、記憶と文学、共有された記憶、記憶の哲学の6つのテーマで選書したブックガイド。個人と集団をまたぎ、深遠な哲学とも最先端のテクノロジーとも繋がる記憶の不思議に分け入っていく63冊を紹介。
◉内戦の記憶・時空を超える音楽
ベイルートの音楽家・建築史家が描く「ホテルの戦い」
戦争によって破壊された街や都市の記憶を、政治的でない「ネガティブ・モニュメント」として保存することはできないか。レバノン内戦で市街戦が繰り広げられた「ホテルの戦い」をテーマにアルバムを制作したベイルートの音楽家・建築史家、メイサ・ジャラッド氏にインタビュー。
■書籍詳細
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]20号 記憶と認知症 Memory/Dementia』
編集:WORKSIGHT編集部(ヨコク研究所+黒鳥社)
ISBN:978-4-7615-0926-2
アートディレクション:藤田裕美
発行日:2023年8月25日(金)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
判型:A5変型/128頁
定価:1800円+税