「仕組み」を見立てる、というプロダクト・デザイン:「Mitate products」の商品企画
「以下のパーツを全てご購入ください」と、オンデマンド3Dプリントサービスのリンクなどが掲載された不思議なオンラインストア。販売されているのは、既製品と別パーツの組み合わせに新たな用途を見立てるプロダクトブランド「Mitate products」の商品だ。完成させるのは購入者。プロダクトデザイナーが役割を拡張しつつ模索する、既存の製造業やメイカーズムーブメントとも異なる新しいものづくりのかたちとは。
デジタルファブリケーションによる「ものづくりの民主化」が浸透し、個人が3Dプリンターを利用することは珍しいことではなくなった。製造業においても、PHILIPSが修理パーツのデータを公開するなど、アフターケアの一部をユーザーとデジタルファブリケーションのインフラに委ねるような取り組みを目にするようになっている。
企業と消費者の関係性が少しずつ変わっていくなか、既存のマスプロダクションの仕組みを転用することで、自身では製造・在庫管理・発送などを行うことなくプロダクトを手がけているのが、2025年に入って立ち上げたプロダクトブランド「Mitate products」の運営者であるプロダクトデザイナー・瀧口真一さんだ。プロダクトの第一弾としてリリースしたのが、既存のビーカーと金属棒、そして瀧口さんが設計したストッパーの組み合わせによるお香立て「Beaker incense stand」。ここからいったい、ものづくりをどのように問い直せるのか。取り組みの意図とその展望について尋ねてみた。
photographs courtesy of Mitate products
interview by Sayo Kubota, Fumihisa Miyata and Hidehiko Ebi
text by Sayo Kubota
瀧口真一|Shinichi Takiguchi プロダクトデザイナー。家電メーカーにてカメラなどのプロダクトデザインに従事し、現在は事業開発やDX支援に携わっている。個人でも活動しており、既製品を転用したプロダクトブランド「Mitate products」を運営。社会に流通している既存のモノやサービスなどのアセットを転用することで、新たな仕組みをつくることを志向している。 https://takiguchishinichi.jp/
モノに勝手に働いてもらう
──まずは「Mitate products」の概要と瀧口さんの取り組みについてうかがえますか。
Mitate productsは既製品を新しい用途に見立ててプロダクトをつくるブランドです。第一弾商品として2025年2月にリリースした「Beaker incense stand」というお香立ては、オリジナルで設計した金属3Dプリンター製のお香ストッパーに、既製品であるHARIOさんの実験用ビーカーとプラモデル用の金属棒を組み合わせてできている商品です。Mitate productsのホームページでは、これらのパーツを販売している他社ECサイトのリンクと組立図を掲載しているので、ビーカーと金属棒をAmazonで、お香を固定するストッパーをDMM.makeで購入の上、お客様に届いたパーツをご自身で組み立てていただくことで、商品が完成します。
──どのような経緯で最初のプロダクトが生まれたのでしょうか。お香立てが作りたくて、この仕組みにたどり着いたのですか。
「オンデマンド3Dプリントサービスと既製品を組み合わせて商品をつくる」という仕組みをまず考え、具体的な商品としてお香立てを選びました。3Dプリントサービスや既製品を使うと単価が高くなるだろうという感覚があったので、高いものだと3万円を超える商品が流通しているお香立てであれば、お客様の価格需要性とある程度合致すると考えました。
──商品アイデアよりも先に仕組みを考えた、ということでしたが、そもそもの事業の着想のきっかけは何だったんでしょうか。
色や形のデザインにとどまらず、独自のビジネス設計から運営まで自ら行うクリエイターの方を見かけるようになったことです。例えば建築家の谷尻誠さんという方は、千葉で購入した土地に宿泊施設を設計し、それをシェア別荘事業として自社で運営するなどしています。また2020年に自邸を建てた谷尻さんは、1階と3階に入ったテナントからの賃貸収入で月々のローン返済をすべて賄っており、いわば家に働いてもらうという事業をしています。このような事例を目にして、自分もプロダクトデザインの分野で同じように挑戦してみたいと思いました。
既製品のビーカーと金属棒、3Dプリンターでつくったストッパーを組み合わせたお香立て「Beaker incense stand」
3Dプリント+既製品
──自分でビジネスをするという意味でいえば、シンプルに自分で3Dプリンターでつくったものをそのまま商品として売るという方法もあると思うのですが、どうしていまのような少し変わった流通方法に至ったのでしょうか。
独自のビジネスの在り方を模索したかったこと、そして製造・在庫管理・発送などの負担やリスクを小さくできないかと思ったからです。構想をしていたときにちょうど親の遠距離介護が重なったこともあり、企業がやっているようなものづくりをそのままやることは難しく、短所というかネガティブな条件をむしろうまく活かすやり方がないだろうか、と考えました。
そこで着目したのがオンデマンド3Dプリントサービスです。データさえアップロードすれば、注文ごとに製造や発送などを全部代行してくれます。とはいえ3Dプリンターだけだと、素材や機能の制約から、つくることができる商品が限られるという印象がありました。そこから、もうちょっとジャンプができないかなと。
──たしかにオンデマンド3Dプリントサービスで売られているプロダクトは、フィギュアなどの造形作品や、アタッチメントパーツが多いイメージもありますね。
そうなんです。一方で、例えば知人のプロダクトデザイナー・石川雅文さんは、時計の動力源となる既製品のムーブメントを使って「World Clock」というオリジナルの時計を製造・販売しています。一般的な時計の動力源を用いつつ、側面に都市の名前が印字してあり、時計を転がすと文字盤だけが空転し、知りたい都市の時刻がわかるというものです。この商品の筐体は3Dプリンター製ではないものの、既製品をうまく使うことで、個人でも高度な構造や機能をもつユニークなオリジナル商品をつくることができるのだと気づかされました。
そして、オンデマンド3Dプリントパーツと既製品を組み合わせることで、自身では製造・在庫管理・発送などを行うことなく、ユニークなオリジナル商品を個人でもリスクなく製造する、「モノに勝手に働いてもらう」という仕組みを思いつきました。
石川雅文さんによる「World Clock」。LEXUS DESIGN AWARD2013を受賞し、2018年に商品化。 photograph by Jun Takano / neut
ボケとツッコミを入れ替えてみる
──3Dプリンター単体でのものづくりについては限界を感じたということでしたが、個人のものづくりの活性化という面では、近年のメイカーズムーブメントに対して瀧口さんはどんな思いを抱いていらっしゃいますか。
ものづくりのハードルが下がり、誰もが創造性を発揮しやすくなるため、すごく良いことだと思います。例えば以前WORKSHGHTでも取材されていた新工芸舎さんは、工芸の方向性でご活躍されていますよね。あの凄さって何だろうと考えるに、FDM(熱溶解積層)方式3Dプリンターの短所とされる積層痕をむしろ編み物のような「表現」として活かしたことだと思います。素材や工法の特性を形に反映するというのは、プロダクトデザインの王道的なやり方なんです。3Dプリンターのひとつの答えとして尊敬する一方で、別の方向性がないかと考えたときに、わたしは「仕組み」からつくることに興味があったことが、Mitate productsにつながっています。
──仕組みへの関心について、もう少し突っ込んでうかがえますか。
やや遠い話のように感じられるかもしれませんが、例えばわたしはお笑い芸人のオードリーが好きで、特に若林正恭さんと春日俊彰さんによる漫才の「仕組み」に惹かれるんです。ボケの春日さんが話の的やタイミングが外れた発言をして、若林さんがツッコむ「ズレ漫才」で知られていますが、もともとボケとツッコミが逆だったんです。売れない時代、春日さんがいつもズレたツッコミをしてしまうことに若林さんが悩んでいたのですが、春日さんがズレたツッコミをしたときに若林さんが「それ違うだろ!」とツッコみ返すとお客さんの反応が良かったらしく、春日さんのズレをそのままボケとして活かすことで「ズレ漫才」というスタイルができたんです。
他にも、春日さんはセリフを間違いやすいのですが、そんなときは若林さんが春日さんの胸を2回トントンと叩くと春日さんが「ヘッ」と言ってボケることで場が和み台本の流れに戻る時間ができるなど、春日さんの短所を踏まえた上で、それを動かせない定数として漫才のフォーマットが組み立てられています。
──ここでもまた、短所を活かすかたちで「仕組み」が作られている、と。
別の話として、昨2024年にオードリーが東京ドームでライブを行った際に話されていたエピソードがあります。若林さんは体力づくりのために自転車を始めたんですが、自転車で行く場所がいつも一緒でつまらなくなってきたので、Uber Eatsを始めたそうなんです。Uber Eatsって注文を受けると配達先が設定されるんですが、若林さんはそれを「目的地がランダムに設定される自転車アプリ」として使っていたんです。しかも頑張ったらちょっとお小遣いももらえるので、やる気が出る。そんな少し違う角度で物事を捉える着眼点と、そこから築かれていく仕組みにわたしはすごく惹かれるんです。例えばMitate productsは個人での活動なので、ヒト・モノ・カネの経営資源が企業と比べてほぼありませんが、何とか戦えそうな「自分」という人的な資源の価値を最大化しようと意識しています。
──既製品に新たな用途を発見して「仕組み」を発表するというやり方ですが、一度知られてしまうと、他の人もいくらでもその「仕組み」を真似できるんじゃないでしょうか。もっと安いビーカーを買ったり、別のパーツを買ったりしてしまうことも起こり得るのでは。
真似されるのはまったく構いません。もっと安いビーカーを買っていただいてもストッパー部分の利益は出ますし、仮にわたしの商品が売れなくなった場合も在庫リスクはゼロです。むしろ他の人が真似してくれるとマーケットが広がると思います。何より、既製品との組み合わせを見立てることでビジネスになるという仕組みを立ち上げた時点で、優位な状況をつくることができています。
従来であれば、企業に属したり業務を受託したりして商品をつくるか、コンセプトをコンペやイベントで提案してみて企業やバイヤーさんが気に入ってくれたらそこからビジネス化の話が始まるか、ということが多かったと思います。一方でMitate productsのような仕組みであれば、自分でアイデアをつくった段階で、ビジネスできるんですよね。
──ただ、ご自身が手がけたプロダクトが流通しすぎると、既製品のメーカーとの間でコンフリクトが起きかねない気もします。そのあたりはいかがですか。
いまは、まったくそこまで考えられていないです。というより正直、まだそんな売れ方をしていません(笑)。でもおっしゃるとおり、規模がまだ小さいからコンフリクトが起きてないのかな、という気はしますね。
Mitate productsホームページに掲載されている購入フロー図や組み立て図
プロダクトからの事業設計
──Mitate productsのコンセプトとして、サイトに茶道の「主客一体」の考え方が引用されていますよね。
わたしが大学生の頃に茶道を経験していたこともあり、Mitate productsのコンセプトをうまく言い表すことばを探すなかで、茶道の「見立て」「主客一体」という考え方に思い当たったんです。仕組みを理解していただいたり、お客様自身に組み立てていただいたりという点がネックだと思ったので、それをポジティブに表現してくれることばだな、と。
茶席はおもてなしする亭主と客人が一緒につくり上げるものと考えられていて、これを「主客一体」と言います。例えば、客人が全員茶室に入った後で亭主が最後に茶室に入るんですが、最後の客人が入ると茶室の戸をいったん閉めるんです。そのときにわざとコツンと音を立てます。裏で待っている亭主は、その音で客人が全員茶室に入ったと知るわけです。
──オードリー・春日さんの胸を若林さんがトントンと叩くのと、同じですね。
たしかに、そうですね(笑)。そういうフォーマットでやりますよ、ということを全員が共有しているからこそ茶席が成り立っています。
──Mitate productsの製品も、お客さんが「ビーカーと金属棒は各自で買うんだ」と理解してくれないと成立しない、ということですね。とはいえ、「仕組み」自体にフォーカスした製品というのは、まだ理解されづらい気もします。
そこはまだ試行錯誤中です。小さな工夫ですが、ホームページでは購入フローや組み立て方法を誰でもわかりやすいようにできるだけ図示するようにしています。本業で複数の会社や組織を横断した合意形成が必要な場面が多く、それぞれの意見を構造化したり図式化したりしてステークホルダーの理解を得るようにしていますが、そういった経験が少し活きているかもと感じます。
──個人での活動は、本業とどのように関連していますか。
築きたいキャリア像を実現するために、個人活動を通じて小さく早くプロトタイプしてみて本業に活かす、そして本業での学びや知見をまた個人活動にフィードバックする、ということを意識しています。具体的にはビジネスの上流から設計できるデザイナーになりたいと考えているのですが、デザイン部門から事業開発部門に異動した本業と、個人活動との両輪で、自分の目指すキャリアを実現したいと思っています。また、わたしと同じようにヒト・モノ・カネが必ずしも潤沢ではない企業や組織の方とのコラボレーションが生まれるなど、広がりが出てくると嬉しいです。
──ビジネスの上流から携わりたいのは、どのような理想像があるからなのでしょうか。
デザイナーとして事業企画の部分から関わっていきたいという思いがあります。冒頭でもお話しした建築家の谷尻誠さんのお仕事で例を挙げると、しまなみ海道で有名な広島県尾道市に「ONOMICHI U2」というサイクリスト向けの宿泊・商業施設があるんです。戦時中に建てられた古い海運倉庫を商業施設にリノベーションするべく行われた事業プロポーザルコンペで選ばれてできたものです。谷尻さんは、日帰り客が多く観光収益が少ないという尾道の地域課題や、車が買えるほど高価な自転車を安心して止められる宿泊施設がないことに困っているサイクリストがたくさんいるという顧客課題に着目し、自室まで自転車をもち込めるサイクリスト向けホテルの企画にしてしまったんですよね。結果、開業した年にはしまなみ海道のサイクリング客が前年比45%増という経済効果を生んでいます。
──コンペのお題を上塗りして、新たな「仕組み」をつくったわけですね。
与えられた要件を疑うこと、そして建築という手段を通じて事業課題や社会課題を解決しているという点でとても感銘を受け、わたしもこのような仕事をしたいと思っています。また先ほどお話しした新工芸舎さんの話のように、クリエイターは素材や工法の要件が厳しいほどやる気に溢れる職種です。わたしはそれに加えて、谷尻さんのようにビジネス要件も同じように糧にすることで、社会課題を創造的に解決するビジネスをデザインしたいのです。
Mitate productsについては、既製品に3Dプリンターでつくったパーツを組み合わせるだけでなく、ソフトウェアを組み合わせる製品を考えています。社会に流通している既存のアセットを「見立てる」ことで、今後も新しい商品を販売して行く予定です。
お香を固定する、ストッパーの試作品の数々
次週8月5日は、「馬語」についてのインタビューです。一頭の与那国馬と久米島で暮らし、馬の名前を冠した自身の出版社・カディブックスから『馬語手帖』『はしっこに、馬といる』『くらやみに、馬といる』といった著作を刊行してきた文筆業の河田桟さんに、馬同士の、そして馬と人とのあいだの、”ことばにならざることば”についてうかがいました。離島で紡がれる繊細な関係性は、わたしたちに日常的な感覚を問い直させるものでもあります。お楽しみに。
【WORKSIGHT SURVEY #13】
Q:デザイナーは、企画や仕組みづくりの段階から関わるべき?
瀧口さんは、これからのキャリア像について「ビジネスの上流から設計できるデザイナーになりたい」「社会課題を創造的に解決するビジネスをデザインしたい」と語っています。今後、デザイナーはプロダクトの制作にとどまらず、事業企画や仕組みづくりの段階からも関わるべきだと思いますか? みなさんのご意見をお聞かせください。
【WORKSIGHT SURVEY #12】アンケート結果
音楽で世界を良くする方法:『ミュージックシティで暮らそう』書評【tofubeats特別寄稿】(7月22日配信)
音楽はいかに行政において政策化し、「公共化」することができるのか。その青写真を描き出した注目の書『ミュージックシティで暮らそう:音楽エコシステムと新たな都市政策』を人気音楽家・DJのtofubeatsが読み解く。
Q:行政府は「文化」にもっとコミットすべき?
回答理由(抜粋)
地域の魅力を内にも外にも発信するには必要不可欠だと思います。
日本では箱だけつくってあとは放置、というパターンが多いのでその中身についてもある程度コミットするべきだとは思いますが、どうコミットするかはすごく難しい問題だと思います。
<規制>というかたちではなく、<促進><応援>というようなかたちで行政府から積極的に関与してほしいと感じることが多々ある。
文化は具体的な生活の一つひとつから生まれるものだから、行政が生活を支えることは当然。








