「これからは詩の時代になる」という確信:ナナロク社の歩みから見えるもの
ちぢこまった世界を刺激し、息を吹き返させる言葉は、世界のあらゆる場所に眠っている。その瑞々しい言葉の片鱗を集め、一冊の「詩集」のかたちに仕立てて世に配り、若い読者を中心に人気を博しているのが2008年創業のナナロク社であり、編集者の村井光男さんだ。同氏を招いて行われた、「詩のことば」を特集したプリント版WORKSIGHT関連イベント「一冊の詩集が生まれるまで」の、白熱したトークをお届けする。
谷川俊太郎『あたしとあなた』(2015年刊)。装丁は名久井直子。 Photo courtesy of NANA ROKU SHA publishing
近年、書店の片隅で徐々に存在感を増している詩歌のコーナー。そこに並べられている本のつくり手のなかでも、ひときわ若い読者層から支持を集めている版元がナナロク社だ。創業者として同社を率い、編集者として奔走する村井光男さんこそが、その静かなブームの中心人物である。『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』関連イベントとして催された、村井氏と、『WORKSIGHT』を編集する若林恵と宮田文久の3者による本トーク。会場である東京・高円寺の蟹ブックスには、ナナロク社の刊行物の愛読者たちが詰めかけた。
text by Fumihisa Miyata
『カイジ』のような日々を超えて
宮田 嬉しいことに会場にはギッシリお客さんがいらしてくださり、冬の最中に熱気を感じるほどです。村井光男さんには「詩集や歌集を編集し、出版する」というのは実際にどのような営みなのか、リアルなところをうかがえればと思っております。
村井 ありがとうございます、今日はよろしくお願いします。
若林 両脇におりますのが『WORKSIGHT』のディレクションを務めているわたくし・若林と、シニア・エディターの宮田です。村井さんはナナロク社さんの社長と呼んでもさしつかえないんでしょうか。
村井 はい、一応社長ですね。社長って呼ばれたことはないですけれど……(笑)。3人でやっている会社でして、2008年の創業からこのイベント開催時点で15年、2024年春に丸16年になります。
若林 素晴らしいことですね。いきなりうかがうのも恐縮ですが、“ヤバい”ときはありましたか。
村井 ヤバいといえばずっとヤバいですけれど……最もヤバいときは、漫画の『賭博黙示録カイジ』のようでした。借金を背負いすぎて地面がグラグラ揺れて空間がゆがむという描写があるんですが、あれを経験したことがあります(笑)。あれ誇張表現じゃなくって、そのまま本当だったんだなあ、と。
若林 ハハハ! いきなり強烈なエピソードですね(笑)。そうしたご苦労も含めて、ゆっくりうかがわせてください。刊行ラインナップはいま、どういった割合になっているんですか?
村井光男|Mitsuo Murai(中央) 1976年東京都生まれ。2008年ナナロク社を設立。刊行するすべての本の編集、または制作を担当。谷川俊太郎『あたしとあなた』、岡本真帆『水上バス浅草行き』などの詩歌の本を中心に、川島小鳥『未来ちゃん』(講談社出版文化賞)、森栄喜『intimacy』(木村伊兵衛写真賞)、『岡﨑乾二郎 視覚のカイソウ』ほか、写真集・アートブックの刊行でも注目を集める。
若林恵|Kei Wakabayashi(右) 編集者。黒鳥社コンテンツ・ディレクター。元『WIRED』日本版編集長。「WORKSIGHT」のディレクションを務める。著書に『さよなら未来』、聞き手を務めた宇野重規著『実験の民主主義:トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ』、畑中章宏との共著『『忘れられた日本人』をひらく:宮本常一と「世間」のデモクラシー』など。
宮田文久|Fumihisa Miyata(左) フリーランス編集者。「WORKSIGHT」ではシニア・エディターを務める。編著に、津野海太郎著『編集の提案』がある。ウェブ連載「編集できない世界をめぐる対話」など、インタビュー取材を多く手がけている。
村井 いまは年に8冊ぐらいの書籍を出版していまして、コミックや写真集、最近では造形作家・批評家の岡﨑乾二郎さんによる、脳梗塞からのリハビリ記でもある作品集『頭のうえを何かが:Ones Passed Over Head』など、いろんなものをつくってきています。そうしたものがありつつ、2023年は詩集や歌集が8割ほどを占めていますね。社史を振り返ってみると、川島小鳥さんの写真集『未来ちゃん』(2011年)が弊社最大のヒットで、累計13万部ほどを数えています。刊行年で8万部の売れ行きでしたが、2022年は詩歌関連の本の合計だけで同規模の売り上げになりました。
宮田 会社きってのヒット作の初速に、さまざまな詩集や歌集を合わせた売り上げが並ぶようになっている、と。
村井 そうなんです。ただ、会社ってそうした業績が持続しないといけないんですよ。いきなり売り上げが伸びると、大変なことになります。『未来ちゃん』を出す前年は、売り上げが年1,000万円ほどで、製作費や経費を引いたらほぼ残らなかったのが、翌年は、売り上げが1桁増えた。
若林 夢がある話ですよね。
村井 一方で、『カイジ』状態になったのもその後なんです(笑)。当然、次年度にはものすごい数字の税金を納めることになり、あとこれは昔からなのですが、本の製作費がとにかくナナロク社は高い……手許にお金があると本につぎ込む。良い本なのになかなか売れなくて収支はマイナスといった浮沈が続きました。それから10年ほど経って、本づくりと売り上げのバランスもとれてきて、詩集と歌集の刊行を積み重ねることでようやく同じぐらいの売り上げに達したというのが、自分としてはとても感慨深いことでした。
(上)2023年11月に開催された「ナナロク社の詩と造本」展(於東京・立川SUPER PAPER MARKET)の展示風景。それぞれの詩集・歌集には作家や装丁家、印刷所と取り組んだ造本のポイントや制作時の思い出が添えられ、同様のテクストがプリントされたポストカードも配布されていた。 Photo courtesy of NANA ROKU SHA publishing & SUPER PAPER MARKET (下)2021年12月刊、岡野大嗣の第3歌集『音楽』。装画は佐々木美穂、装丁は佐々木暁。 Photo courtesy of NANA ROKU SHA publishing
詩歌の必要性をめぐる「仮説」
若林 戦略的に進めてきたからこそ、やっとそこまで到達できたという感じなんでしょうか。それとも、何か追い風が吹いているんですかね。
村井 戦略的なのであれば、出版社をやっていないかもしれません(笑)。どちらかというと、理念先行型というか、思い込み先行で会社をやっているところがあります。もともとナナロク社を始めたときは、わたしはアイフルでお金を借りていましたから。まったくお金がないようななかで、『生きる』という写真詩集(詩:谷川俊太郎、写真:松本美枝子)をつくったのですが、それも京都の印刷所の社長さんが、支払いを3年待ってくれると言ってくださったからこそ刊行できました。しかも念書の1枚も何もない、口約束のみです。本当にありがたいことでした。ですから、戦略も何もなかった。ただ、とにかく詩歌は絶対に世の中に必要だ、という仮説は20代の頃から立てていました。これからは詩の時代になるなと思ってナナロク社を始めて、とにかく刊行していった。ずっと賭けていたというか、詩歌に張って、張って、張り続けていたところに、やっと時代がかみ合ってきたというのが、正直な実感ですね。
宮田 『カイジ』は比喩でも何でもなかったわけですね。
村井 戦略はなかったですが、詩集や歌集といった本をきちんと出版業としてまわしてみたいと思い、実際にずっとそれをやってきた、とはいえると思います。基本的に、詩歌の世界では、著名な詩人でなければほとんど自費出版や、著者が自分で書籍を買い取る自著買いといったかたちで成り立っていますが、ナナロク社では、著者の負担はなしで、最初から印税を払い続けています。これはどちらが良い悪いということではなく、たとえば100部でもつくることに意味がある本も当然あって、実際に、そういった本が名著として残ることもあります。ただ、ナナロク社では、ある程度の数の読者に届けることを目的にしてきました。そこから生まれた工夫などが、ノウハウとして蓄積されてきたのだと思います。
若林 そもそもナナロク社を立ち上げるに至ったのも、そうした詩歌へのこだわりや思いがあってこそ、ということでしょうか。
村井 はい。高校の頃から、本がちょっとでも好きなら誰もがとおる宮沢賢治や中原中也などの詩が好きで、なんだかよくわからないけれど読んではシビれていて、言葉の魅力というものに引き寄せられていきました。他方で、だんだんと大人になるうち、世の中というのはほとんど言葉に支配されているなということも実感していきました。正しさと間違いをめぐる、言い逃れのできないような言葉にみんな支配されているけれども、詩の言葉だったらそこを解きほぐして、すこしでも抗っていけるのではないか、と。
宮田 言葉で縛られた世界に抗うための、詩の言葉ということなんですね。
村井 とにかく詩を武器にしてみんなに手渡すというのが絶対大事だと、学生時代から思うようになっていたんです。ただ、最初に入社した自費出版の出版社は、3年でクビになりまして……(笑)。ただ、何もないのにやる気だけはあって、イマココ社という、会社組織でもない個人で出版社をはじめ、不思議な縁が重なり、谷川俊太郎さん、舞城王太郎さん、佐内正史さんら、自分の敬愛する方たちと本づくりをしていました。この2年の間にもいろいろあって立ち行かなくなり、元の出版社にまた呼ばれたので戻ったらその会社がつぶれて。その頃は本当に疲れ切っていました。今度はまったく元気もやる気もなくて、でも小さな意思だけはまだ残っていて……、そこから立ち上げたのがナナロク社という会社です。なんだかんだ、若い頃からずっと詩集やアートブックはつくり続けてきていて、自分が「これがいい」といいと思うものをみんなに買ってもらいたいという気持ちは、変わっていませんね。
2024年1月刊、歌人・東直子による初の「詩集」である『朝、空が見えます』より。1日1行、365日の朝の空を綴った詩行が連なる。 Photo courtesy of NANA ROKU SHA publishing
定価は「岩盤を削るドリル」である
宮田 ナナロク社さんの詩集や歌集は、とてもこだわっているように見えても定価が1,500円前後、ということもよくありますよね。
若林 安すぎですよ……(笑)。
村井 そうですね、だから『カイジ』のように視界がグニャ~ッとゆがんでしまのかも……(笑)。あたりまえの話なのですが、本をつくった時点では一銭も入ってきません。印刷費、デザイン費、印税と、すべて先に払うのみです。で、これを買ってもらおうと思うと、詩歌の分野で、自分たちの本を手にする新たな読者層を開拓するしかないんです。そのときに、武器となるもの、岩盤を削るドリルみたいなものとして機能するもののひとつに定価があると、昔は特に思っていました。同じ利益を得るのだとしたら、2,000円で2,000部売るのと、1,500円で3,000部売るのなら、後者のほうをとろうと。とはいえ私も値付けに関しては、経験則でやっているところが多分にありますが……。
若林 出版の定価というのは、実は面白い領域なんですよね。セオリーがあるようでないですから。
村井 だからこそ、逆にいえば定価はメッセージですよね。「この値段で売りたい」「ちょっと良いなと思って、書店で詩集が買える世界はいいよな」という気持ちがあるというか。ただ、値段が安くて喜ばれたという経験は、実感としては一度としてないですね。喜んでもらうために値段を下げるというのは、お門違いという気もします。あと、たとえば表紙に箔押しするとして、それはわたしの勝手じゃないですか。好きでやってるのに、なぜ値段を上げるんだ、と……(笑)。もちろん、ナナロク社の書籍の値段は安すぎるという批判は妥当なものだとも感じますし、すこしずつそこは見直しています。
詩人・歌人という職業、あるいは副業
若林 もし参考までにうかがえるなら、著者である詩人や歌人の方には、おいくらほど払っていらっしゃるのでしょうか。
村井 これはオープンにしていますからお伝えできるのですが、ナナロク社はどんな著者の方でも印税率はすべて一律です。初版が刷部数の7%、増刷からは10%です。たとえば1,700円の本で初版3,000部だとしたら、およそ35万円が最初に著者に入る、という感じです。
宮田 詩集や歌集の世界で、そのレベルのきちんとした印税が支払われ続けているイメージというのは、まったくありませんでした……。
村井 まあ、大変ではあります(笑)。
若林 しかし、ナナロク社さんが珍しい存在なのだとしたら、逆に詩人の人はどうやって食べているんでしょうか。
村井 兼業ではない、専業の職業詩人・歌人という方は、わずかな例外を除いてほとんどいないと思います。普通に働かれながら、その生活のなかで詩集や歌集を出すという方が大半だと思います。仮に印税だけで食べようと思ったら……どうでしょうか、印税は10%、年収は世代や環境によっても大きく異なりますが、400~500万円と設定しても、1,700円の本だったら年間で3万部ほど刷らなければいけません。ひとりの詩人が詩集で年間3万部を売るということは、これはもうべらぼうに大変です。ただ、ナナロク社ではたとえば木下龍也さんの歌集『オールアラウンドユー』(2022年)は、定価1980円(税込)で、現在21,000部。同年刊行の岡本真帆さんの歌集『水上バス浅草行き』は定価1870円(税込)、2万部に到達しています。
若林 なるほど。
村井 木下さんは3、4年前に、短歌に取り組む時間を確保するために独立されました。そうした著者の方もいらっしゃいますが、わたしとしては必ずしも、専業になることがいいとも、そこを目指すのがゴールとも思いません。もちろん経済的な意味合いが大きいですが、長く続けるための生活上のシフトを、詩人や歌人の方がかたちづくっていけるかどうかというほうがすごく大事だな、と。だとすると、詩歌の収益だけで生きていくことがベストであるかどうかは、人によるだろうなという気がします。
宮田 創造し続けられるほうを選ぼう、と。
村井 自分にプレッシャーをかけるために専業になる方もいますから、個人の選択であって、どちらの道もありえる。わたしとしては、そうした著者さんたちの詩集や歌集を出そうと思う出版社が増えればいいなと感じます。才能のある詩人や歌人の人が多くいるということに気づいた出版社さんが最近は増えてきて、これまであまり手がつけられていなかった分野であるぶん、「ついに見つかったか!」といいますか、ヤバいなと感じています(笑)。しかし、すそ野というか、多種多様ないろんな本が続々と出ないことにはジャンルは育たない。私は2052年、自分が70代の中頃まではナナロク社をやろうと決めています。森が広がっていくように、詩歌というジャンルの読者の幅が2倍、3倍、4倍になっていけばいいなと思っています。
(上)2022年10月に刊行された木下龍也の第3歌集『オールアラウンドユー』。5色ある表紙の色がランダムで書店に届くという仕様。装丁は名久井直子。定価は1,980円(税込)。 (中・下)2022年3月刊、岡本真帆『水上バス浅草行き』。装丁・絵は鈴木千佳子。定価は1,870円(税込)。 Photo courtesy of NANA ROKU SHA publishing
新しい才能は、至るところに
宮田 村井さんご自身は、新しい才能に、どのように出会うのですか。
村井 2020年から開催してきているのが、「あたらしい歌集選考会」というものです。ナナロク社から刊行する歌集のための選考会で、木下龍也さんと岡野大嗣さんというおふたりの歌人に「選考者」になっていただき、応募作のなかから独断で1作ずつ「選出作品」を決めていただく。合議制をやめて、わたしが信頼するおふたりそれぞれの感性で新しい才能を見いだしていただくというかたちです。HIPHOPでいうところの「フックアップ」というか、先に世に出た歌人があたらしい歌人を引っ張りあげていくというのは、続けていきたい流れです。また、いまは、どこに詩歌の才能をもっている人がいるか、わかりません。たとえば鈴木ジェロニモさんという芸人さんがいて、彼は「説明」するYouTubeチャンネルをずっとやっているんです。
若林 「説明」ですか?
村井 たとえば「水道水の味を説明する」「1円玉の重さを説明する」という感じですね。これは谷川俊太郎さんの詩集『定義』にも通じるところがある。実際に鈴木さんは近年、歌人としても注目を集めています。至るところに存在しているそうした才能を、わたしたちがどんどん見つけていければいい。ご自身では詩を書いているとは思っていらっしゃらなくても、「あなたの書いているものは詩なんですよ」とお声がけして詩集のかたちにパッケージしていくことも、きっとできるだろうと思います。
(上)2023年6月刊、「第2回 ナナロク社 あたらしい歌集選考会」で岡野大嗣が選出した、多賀盛剛の第1歌集『幸せな日々』。装丁は鈴木千佳子。 Photo courtesy of NANA ROKU SHA publishing (下)鈴木ジェロニモのYouTubeチャンネルより、「水道水の味を説明する」。
死滅する前に、ポエジーを保護する
村井 これはわたしの実感という話になるのですが、いまから10年ぐらい前は、詩集自体にポエジーがあまり集まっていないのかもしれないな、と思っていました。詩の外、たとえばTwitterといったSNSとか、いろんなところにポエジーが拡散している状態なんだな、と。ポエジー自体はあらゆるところに散らばっていた。それを再結集させて、詩集というかたちにどうまとめるか、ということを考えていました。けれども、この数年間で状況が変わってきたな、とも思うんです。拡散していたポエジーが、死滅し始めているな、という感じがする。SNSにしても、言語空間として何か豊かなものを醸成していく可能性もあったと思うのですが、わたしたちみんなが、そのような公共の場として育むような方向性へとコントロールしきれなかった。
若林 それは感覚的にわかるような気がします。
村井 そのときに、消え去ってしまいかねないポエジーや言葉というものを取り返すために、やっぱり詩は必要なんだと思っています。もちろん、すべての言葉が詩の言葉であるべきだということではありません。99.9%は、情報や散文も含めた普通の言葉でいいと思うのですが、0.1%はそこに溶け込まない詩の言葉を混ぜ込んで変化させていかないと、わたしたちはこのまま自分たちがつくった言葉によって殺されるなという感じがする。本を出すということは、そこへの抗いをかたちにして出しているということなんだと思いますね。ですから、以前よりもさらに詩集や歌集を出す意味は重要になってきているし、求められる時代に入ったなと感じます。そうした時代に、詩集という器はとても適している気がします。
宮田 「詩集という器」ですか。
村井 はい。不思議なことに、ネット上に詩があって、それをみんなで読んでいるという状態と、それが詩集というかたちになって読者がひとりで読んでいるという状態って、やっぱり違うと思うんです。これは決して感傷的な意味合いではなくて……要は、本って具体的な「物」として自分の所有物になりますよね。わたしたちも取り組んでいますが、電子書籍だとやはりプラットフォームありきといいますか、あくまで借り物であって自分で所有はできない。でも、“戦う”ときって土地と所有は大事だと思います。
若林 なるほど、ある種の領土ですね。
村井 戦う相手が何なのかということはなかなか難しい問題ですが、言葉がちょっとずつ奪われているという感覚は、自分のなかにずっとあるんですよね。そのときに、詩の言葉を所有しているということは大きいはず。詩集を読むとき、読書という個人の孤独な営みから、まずは言葉を取り返すことができる。そしてときに、その読書経験を誰かと共有するなどして、横につながっていくこともあるでしょう。最後に、『WORKSIGHT』の「詩のことば」特集にも載っていた、言葉を読み上げてもいいですか。グラフィックデザイナーの原田里美さんという方が韓国カルチャーと詩の関係を読み解く「そこがことばの国だから」という文章に引用されていた、荒川洋治さんの『詩とことば』(岩波現代文庫)の一節です。
いまは時代も、たたかう相手も鮮明ではない。読者もいない。何もなくなったのだ。こんなとき、詩は何をするものなのだろうか。そもそも詩は、何をするものなのだろうか。詩の根本が問われているのだ。だとしたら、ここからほんとうの詩の歴史がはじまるのかもしれない。
次週2月27日は、注目のオルタナティブスポーツとしてThe New York Timesでも取り上げられた「コーフボール」を特集。1902年に生まれた歴史あるスポーツでありながら、体格差などを極力是正する緻密なルール設計によって、男女混合で楽しめるという先進的な側面をもつコーフボール。WORKSIGHT外部編集員が実際に体験し、そこで体感したコーフボールの意義や魅力をお届けします。お楽しみに!
【新刊案内】
Photo by Hironori Kim
書籍『WORKSIGHT[ワークサイト]22号 ゲームは世界 A–Z World is a Game』
「21世紀はゲームの時代だ」──。世界に名だたるアートキュレーター、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが語ったことばはいま、現実のものとなりつつある。ゲームは、かつての小説や映画がそうであったように、社会を規定する経済的、政治的、心理的、そして技術的なシステムが象徴的に統合されたシステムとなりつつあるのだ。それはつまり「ゲームを通して見れば、世界がわかる」ということでもある。その仮説をもとにWORKSIGHTは今回、ゲームに関連するキーワードをAからZに当てはめ、計26本の企画を展開。ビジネスから文化、国際政治にいたるまで、あらゆる領域にリーチするゲームのいまに迫り、同時に、現代におけるゲームを多面的に浮かび上がらせている。ゲームというフレームから現代社会を見つめる最新号。
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]22号 ゲームは世界 A–Z World is a Game』
編集:WORKSIGHT編集部(ヨコク研究所+黒鳥社)
ISBN:978-4-7615-0929-3
アートディレクション:藤田裕美
発行日:2024年1月31日(水)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
判型:A5変型/128頁
定価:1800円+税
【イベント案内】
Photo by Kaori Nishida
トークセッション「講談社と集英社が描く、インディゲームの未来」
現在発売中の『WORKSIGHT[ワークサイト]22号 ゲームは世界 A-Z World is a Game』の関連イベントとして、講談社ゲームクリエイターズラボでチーフを務める片山裕貴さん、集英社ゲームズで執行役員/経営管理・マーケティング統括を務める森通治さんをゲストに迎え、3月2日(土)にトークセッションを開催します。
日本を代表する出版社は、なぜゲームの世界に参入したのか。本誌掲載のインタビュー記事「Japanese Indie:講談社と集英社とインディゲームの明るい未来」を紐解きながら、漫画とゲームにおける編集の違い、IP戦略への視点など、出版社ならではのゲームトークを繰り広げます。
ゲーム開発者の方、「ゲームの編集者」というお仕事に興味のある方、IPビジネスに関心のある方、大企業での新規事業立ち上げについて知りたい方など、奮ってご参加ください。
【イベント概要】
■日時
2024年3月2日(土)18:00〜19:30
■会場
コクヨ・サテライト型多目的スペース「n.5(エヌテンゴ)」
東京都世田谷区北沢2-23-10 ウエストフロント1階
※オンライン配信あり
■出演
片山裕貴(講談社ゲームクリエイターズラボチーフ)
森通治(集英社ゲームズ 執行役員/経営管理・マーケティング統括)
山下正太郎(WORKSIGHT編集長/コクヨ ヨコク研究所・ワークスタイル研究所 所長)
若林恵(WORKSIGHTコンテンツ・ディレクター/黒鳥社 コンテンツ・ディレクター)
■チケット
無料