百年の彷徨:アジアを旅した者による本の年代記(WORKSIGHTプリント版・25号「アジアのほう Towards Asia」より)
年に4回プリント版を発行しているWORKSIGHT。年末の特別ニュースレターとして、各号の特集テーマに合わせて選書したブックリストをプリント版より転載して4日連続でお届けいたします。第4弾となる本日は、プリント版25号「アジアのほう」に掲載した60冊をご紹介。
Photo by H. Armstrong Roberts/ClassicStock/Getty Images
4日連続でお届けする年末特別ニュースレターでは、これまでに発行したプリント版より、各号の特集テーマに合わせてWORKSIGHTが選書したブックリストをお届けします。
第4弾は、2024年11月13日刊行の『WORKSIGHT[ワークサイト]25号 アジアのほう Towards Asia』より、「百年の彷徨:アジアを旅した者による本の年代記」に掲載した書籍をご紹介。「1920~1950年代」「1960~1970年代」「1980~1990年代」「2000~2010年代」「2020年代」の5つの年代から各10冊の本をセレクト。海外作家の作品を取り上げた「番外編:異郷としての日本」もお見逃しなく。
百年の彷徨
アジアを旅した者による本の年代記
1世紀という時間をかけて、日本の人びとはアジアの地を訪れ、何かを理解し(たような気になり)、その知見を伝えてきた。そして日本もまた、海外からの眼差しの対象として存在する。旅行、仕事、調査に戦争......訪れる目的はさまざまだ。掴んだと思えば手からすり抜けるアジア、せめてその尻尾へとたどり着くための60冊のブックリスト。
Compiled by WORKSIGHT
1920~1950年代
近代化のプロセスにおいて、アジアは植民地として立ち現れた。戦中から戦後へと、近くて遠い土地と、人々はどう向き合うことができたのか。時代の裂け目を彷徨してきた、エトランゼ(異邦人)たちによって紡がれし記憶。
(左から)2.『愉快なる地図:台湾・樺太・パリへ』、4.『蓬莱島余談:台湾・客船紀行集』、5.『肉体の悪魔・失われた男』、6.『麦と兵隊・土と兵隊』
1.『どくろ杯』金子光晴・著(中公文庫)
2.『愉快なる地図:台湾・樺太・パリへ』林芙美子・著(中公文庫)
3.『中島敦全集 2』中島敦・著(ちくま文庫)
4.『蓬莱島余談:台湾・客船紀行集』内田百閒・著(中公文庫)
5.『肉体の悪魔・失われた男』田村泰次郎・著(講談社文芸文庫)
6.『麦と兵隊・土と兵隊』 火野葦平・著(角川文庫)
7.『上海・ミッシェルの口紅:林京子中国小説集』林京子・著(講談社文芸文庫)
8.『未開の顔・文明の顔』中根千枝・著(中公文庫)
9.『砲火と山鳩:宮柊二・愛の手紙』宮柊二・著(河出書房新社)
10.『モゴール族探検記』梅棹忠夫・著(岩波新書)
1960~1970年代
戦後の復興、国際社会への復帰、そして高度経済成長という背景のもと、再び私たちは新しい時代への期待を胸に、アジアを訪れていった。だがしかし、そこには世界の歪みを反映してしまったがごとき、次なる戦火も渦巻いていた。
(左から)13.『アジア太平洋の民族を撮る:「すばらしい世界旅行」のフィールドワーク』、15.『ミンドロ島ふたたび』、19.『有吉佐和子の中国レポート』、20.『香港 旅の雑学ノート』
11.『何でも見てやろう』小田実・著(講談社文庫)
12.『揚子江のほとり:中国とその人間学』武田泰淳・著(芳賀書店)
13.『アジア太平洋の民族を撮る:「すばらしい世界旅行」のフィールドワーク』市岡康子・著(弘文堂)
14.『ベトナム戦記[新装版]』開高健・著(朝日文庫)
15.『ミンドロ島ふたたび』大岡昇平・著(中公文庫)
16.『白きたおやかな峰』北杜夫・著(河出文庫)
17.『遺跡の旅・シルクロード』井上靖・著(新潮文庫)
18.『街道をゆく(シリーズ)』司馬遼太郎・著(朝日文庫)
19.『有吉佐和子の中国レポート』有吉佐和子・著(新潮文庫)
20.『香港 旅の雑学ノート』山口文憲・著(河出書房新社)
1980~1990年代
バブル景気へと突入し、やがてその崩壊と共に、暗黒期を生きることとなった日本社会。その狂騒の最中を、なんとか未来へ向けて命脈を保っていくような、オルタナティブな想像力をもたらしてくれたのがアジアだったのかもしれない。
(左から)21.『台湾鉄路千公里 完全版』、26.『ハングルへの旅【新装版】』、29.『人から人への交易:堀田正彦・民衆交易への挑戦』、30.『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々:City of Darkness』
21.『台湾鉄路千公里 完全版』宮脇俊三・著(中公文庫)
22.『こだまひびく山河の中へ:韓国紀行八五年春』森崎和江・著(朝日新聞社)
23.『台湾韓国香港:逍遙游記』藤原新也・著(朝日文庫)
24.『李良枝セレクション』李良枝・著/温又柔編・解説(白水社)
25.『深夜特急(シリーズ)』沢木耕太郎・著(新潮文庫)
26.『ハングルへの旅【新装版】』茨木のり子・著(朝日文庫)
27.『東南アジアを知る:私の方法』鶴見良行・著(岩波新書)
28.『アジア絶望工場』鎌田慧・著(講談社文庫)
29.『人から人への交易:堀田正彦・民衆交易への挑戦』堀田正彦・著(亜紀書房)
30.『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々:City of Darkness』グレッグ・ジラード、イアン・ランボット・著/尾原美保・訳/吉田一郎・監修 (イースト・プレス)
2000~2010年代
現代社会の常識とは異なる幸福感や、先駆的なテック都市像、さらには自律的・自生的に広がる民衆のネットワーク。ミレニアムを超え、積み重ねられた歴史の層のなかから、混迷の時代の手がかりとなるさまざまな可能性が見出されていった。
(左から)33.『バンコクナイツ:潜行一千里』、36.『北朝鮮と観光』、38.『デオナール アジア最大最古のごみ山:くず拾いたちの愛と哀しみの物語』、39.『食べる旅 韓国むかしの味』
31. 『転がる香港に苔は生えない』星野博美・著(文春文庫)
32.『アジア海道紀行:海は都市である』佐々木幹郎・著(みすず書房)
33.『バンコクナイツ:潜行一千里』空族〈富田克也・相澤虎之助〉・著(河出書房新社)
34.『未来国家ブータン』高野秀行・著(集英社文庫)
35.『越境を生きる:ベネディクト・アンダーソン回想録』ベネディクト・アンダーソン・著/加藤剛・訳(岩波現代文庫)
36.『北朝鮮と観光』礒﨑敦仁・著(毎日新聞出版)
37.『〈生きる方法〉の民俗誌:朝鮮系住民集住地域の民俗学的研究』島村恭則・著(関西大学出版会)
38.『デオナール アジア最大最古のごみ山:くず拾いたちの愛と哀しみの物語』ソーミャ・ロイ・著/山田美明・訳(柏書房)
39.『食べる旅 韓国むかしの味』平松洋子・著(新潮社)
40.『「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ:これからの製造のトレンドとエコシステム』藤岡淳一・著(インプレスR&D)
2020年代
時代が巡れば、アジアとの出会い方もまた変わる。いまだ語られざる地域や国家の詳細を伝えるルポルタージュもあれば、新世代によるフレッシュな邂逅の記録も。その土地は、今日もまた、尽きせぬ問いを懐に秘めている。
(左から)41.『天路』、45.『「シェルパ」と道の人類学』、46.『馬馬虎虎 vol.2 タイ・ラオス紀行』、48.『中国の死神』
41.『天路』リービ英雄・著(講談社)
42.『中国農村の現在:「14億分の10億」のリアル』田原史起・著(中公新書)
43.『アジア「窓」紀行:上海からエルサレムまで』田熊隆樹・著(草思社)
44.『タゴール・ソングス』佐々木美佳・著(三輪舎)
45.『「シェルパ」と道の人類学』古川不可知・著(亜紀書房)
46.『馬馬虎虎 vol.2 タイ・ラオス紀行』檀上遼・著(自費出版)
47.『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』鷹鳥屋明・著(星海社新書)
48.『中国の死神』大谷亨・著(青弓社)
49.『日本人が知らない戦争の話:アジアが語る戦場の記憶』山下清海・著(ちくま新書)
50.『ルポ フィリピンの民主主義:ピープルパワー革命からの40年』柴田直治・著(岩波新書)
番外編:異郷としての日本
私たちは眼差しを送るだけでなく、眼差しの先に晒されながら生きてもいる。単なる好奇心やエキゾチシズムに陥ることなく、その眼差しが他者と交歓するということは、果たして実現可能なのか。日本をめぐる見聞は、何よりのヒントだ。
(左から)52.『ザ・ジャパニーズ』、53.『ブローティガン 東京日記』、57.『鴨川ランナー』、60.『優しい地獄』
51.『幻滅:外国人社会学者が見た戦後日本70年』ロナルド・ドーア・著(藤原書店)
52.『ザ・ジャパニーズ』エドウィン・O・ライシャワー・著/國弘正雄・訳(角川ソフィア文庫)
53.『ブローティガン 東京日記』リチャード・ブローティガン・著/福間健二訳(平凡社ライブラリー)
54.『懐情の原形:ナラン(日本)への置き手紙』ボヤンヒシグ・著(英知出版)
55.『白い紙/サラム』シリン・ネザマフィ・著(文藝春秋)
56.『TOKYO YEAR ZERO』デイヴィッド・ピース・著(文春文庫)
57.『鴨川ランナー』グレゴリー・ケズナジャット・著(講談社)
58.『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』ウスビ・サコ・著(朝日新聞出版)
59.『緑の牢獄:沖縄西表炭坑に眠る台湾の記憶』黄インイク・著/黒木夏兒・訳(五月書房新社)
60.『優しい地獄』イリナ・グリゴレ・著(亜紀書房)
photograph by Leo Arimoto
書籍『WORKSIGHT[ワークサイト]25号 アジアのほう Towards Asia』
わたしたちはずっと西に憧れ、西を目指してきた。しかし時代は変わり、カルチャーの新しい潮流はアジアから生まれつつある──。今号では、人気バンド「幾何学模様」のメンバーであり、音楽レーベル「Guruguru Brain」を運営するGo Kurosawaをゲストエディターとして迎え、〈アジアがアジアを見る〉新たな時代の手がかりを探る。
◉新しいアジアのサイケデリクス
選=Go Kurosawa
◉巻頭言 ひとつに収束しない物語
文=山下正太郎(WORKSIGHT編集長)
◉アジアのほう
対談 TaiTan(Dos Monos)× Go Kurosawa(Guruguru Brain)
◉イースタンユースの夜明け
Eastern Margins/bié Records/Yellow Fang/Orange Cliff Records/Yao Jui-Chung
◉北京のインディ番長、阿佐ヶ谷に現る
mogumogu から広がるオルタナティブ・コミュニティ
◉Dirt-Roots
サッカーでつながるコレクティブ
◉アジアンデザイナーたちの独立系エディトリアルズ
◉テラヤマ・ヨコオ・YMO
中国で愛される日本のアングラ/サブカル
◉百年の彷徨
アジアを旅した者による本の年代記
◉ロスト・イン・リアリティ
MOTEのアジアンクラブ漂流記2018/2024
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]25号 アジアのほう Towards Asia』
編集:WORKSIGHT編集部(ヨコク研究所+黒鳥社)
ISBN:978-4-7615-0932-3
アートディレクション:藤田裕美(FUJITA LLC.)
発行日:2024年11月13日(水)
発行:コクヨ株式会社
発売:株式会社学芸出版社
判型:A5変型/128頁
定価:1800円+税