置き去りにされた"世代の多様性":「ポスト世代革命」の入り口に立つわたしたち
日本国内では1990年代から活発化した「多様性」に関する議論。性別、人種、障がい、LGBTQなどさまざまな視点から論じられるなか、おそらく最も普遍的なものでありながら、長らく忘れ去られてきたものがある。それが「世代の多様性」だ。世界の高齢化が急速に進展するなか、いま注目を浴びる「多世代共生」について考える。
Photo by gremlin via Getty Images
近年、多世代共生をめぐる議論が徐々に活発化している。
世代や年齢は、企業のESG情報開示基準である「GRIスタンダード」やSDGsなどでも言及されるように、組織や社会の多様性を担保する上で欠かせない要素だ。しかしながら、性別や人種、あるいは性的マイノリティなどのテーマと比べると引けをとり、長らく論じられてこなかったテーマでもある。
しかし、国連の推計によれば2050年には世界人口の16%、つまり6人に1人が65歳以上の高齢者になるという。世界的に高齢化が加速するなか、労働力人口の確保や経済社会の維持は各国で社会問題となり、60代、あるいは70代の労働者の継続雇用はすでに現実のものとなっている。まさにいま、わたしたちは多世代共生を考える必要性に迫られているのだ。
そのような背景から2023年8月に出版されたのが、マウロ・ギレン氏の著書『The Perennials:The Megatrends Creating a Postgenerational Society』だ。WORKSIGHTではギレン氏にインタビューを行い、著書のタイトルにもなっている「Perennials」のコンセプトや、その浸透によって起きるとされる「ポスト世代革命」について尋ねた。
interview by Kei Wakabayashi/Shintaro Kuzuhara/Sayu Hayashida
text by Sayu Hayashida
マウロ・F・ギレン|Mauro F. Guillén アメリカおよびスペインの社会学者、政治経済学者、経営教育者。ペンシルバニア大学ウォートン・スクール副校長、エグゼクティブMBAプログラム副学部長のほか、ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネススクール学部長を務める。2020年発行の著書『2030: How Today's Biggest Trends Will Collide and Reshape the Future of Everything』はウォール・ストリート・ジャーナル紙のベストセラーとなり、フィナンシャル・タイムズ紙のブック・オブ・ザ・イヤーにも選出された。
"年相応"からの解放
ギレン氏が提案するコンセプトの「Perennials」は、直訳で「多年草」を意味する。これは、わたしたち人類が「人生の順序モデル」(the sequential model of life)、端的にいえば「〇歳までに〇〇をすべき」というような線形的な固定概念から解き放たれることで、人生の大きな転機を複数回にわたって計画・決断できるようになる状態を指すという。一年草ではなく、何度も“咲く”ことができるという意味合いだ。
幼い頃は遊び、それから学校へ通い、人生で必要なことをすべて学んでから就職し、嫌なことに耐えながら働き、貯蓄し、一定の年齢を迎えたら退職して余生を過ごす。人類は過去100年余り、このような「人生の順序モデル」に準じて過ごしてきました。
しかし今日、このようなモデルに則った意思決定には問題があるのではないでしょうか。未来が予測可能だと考えられていた時代はとうに過ぎ去りました。AIなどの技術革新が著しい現代では、過去に学んだ知識や習得した技能があっという間にコモディティ化してしまいます。
それはつまり、わたしたちは"学び終える"ことはないということです。学校→職場という一方通行の進路ではなく、そのふたつを自由に行ったり来たりしながら、年相応の活動という束縛から解放されるときが来たのです。
すべての人が同じような道をたどる「人生の順序モデル」の無効化は、人生における選択肢の多様性を生む。ギャップイヤーの取得、キャリアの柔軟な変更、複数のキャリアの追求、定年退職後の再雇用やリスキリングなどが促進されるためだ。
世界有数の超高齢社会(人口の21%超が65歳以上)であり、働き手となる生産年齢人口(15〜64歳)の著しい減少を避けて通れない日本では、民間企業だけでなく、政府もこのような「人生の順序モデル」の是正に注力し始めている。政府は2022年、リスキリング支援など「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明。230万人のデジタル人材確保に向けて、若者・シニアの両世代の就業支援を命題として掲げている。
とはいえ、ギレン氏が「Perennials」の普及に努めている理由は、人材不足などの社会課題の解決にとどまらない。社会がシニア世代を過小評価していることを問題視しているという。
わたしは、定年退職を望む人びとに「働け」と言いたいのではありません。定年退職を望まない人びとに機会を提供するべきだと考えているのです。
現在の70代の人びとは、数世代前でいうところの60代のようなライフスタイルを送っており、多くの方が活動的で健康的な生活を楽しんでいます。肉体労働は厳しいとしても、経験に裏付けられた能力やスキルを発揮し、職場で活躍することはまだまだ可能です。また、そのような知見は企業の生産性に大きく寄与するものなのです。
活発なシニア層の増加は、ジャーナリストの山根一眞氏による「人生ゴムバンド」説をはじめ、日本でも長らく言及されてきた現象だ。「人生ゴムバンド」説は、寿命が70年の時代での70歳の人は、寿命が100年の時代での100歳の人と同じような段階であるとするものだ。したがって、現在の60歳は数十年前の60歳と比べて、長寿化にともない、能力的にはいくらか若いと考えられるという。
博報堂生活総合研究所は2023年8月、このようなシニア層の活発化などを背景に、日本社会の「消齢化」が進んでいるという内容のレポートを発表した。消齢化とは、生活者の意識、好み、価値観などについて、年齢による違いが小さくなる現象を示すという。1992年から続く同研究所の長期時系列調査「生活定点」を分析した結果、「生き方へのしがらみが減り(=「すべき」が減った)、自由な生き方への手段は増加(=「できる」が増えた)」したことで、かつて世代間でバラつきがあった嗜好・関心の重複部分が増え、消齢化が進んだという。
これによって、同研究所は「社会的加齢」(かつて考えられていた年相応のライフステージが、年齢とともに徐々に上がっていくこと)が消失しつつあると指摘。これはまさに、年齢に対する固定観念に縛られないという、ギレン氏の「人生の順序モデル」の無効化と共通するものだろう。
ギレン氏は、従業員として大きなポテンシャルをもつシニア世代をめぐって、次のように述べている。
心身ともに健康で、定年退職したくないという意思があるのであれば、就業や学びの機会を提供することはなんらおかしいことではありません。特にアメリカでは、定年退職後に社会から孤立して孤独感に苛まれ、日中にやることといえばテレビ観賞だけ、という人びとも多く存在します。そのような社会のあり方を見直す必要があるのです。
日本でも近年、ビジネス誌などで「定年うつ」(仕事一筋だった人が定年退職を迎え、急にやることがなくなり、自宅に引きこもって暮らすうちにうつ病になってしまうこと)がたびたび取り上げられてきた。東洋経済オンラインの記事によると、65歳以下の人がうつ病になる割合はおよそ3%だが、定年を迎える65歳以降になると5%まで急増するという。
一方、働く意欲がある人びとが年齢を問わず能力を発揮できる環境を実現するため、そして、労働力人口の確保のため、政府は高年齢者雇用確保措置に注力してきた。2013年4月の法改正では65歳までの希望者全員の雇用が義務付けられ、2021年4月の法改正では70歳までの定年引き上げなどの努力義務が新設された。2022年に厚生労働省が公表した「高年齢者雇用状況等報告」によると、99.9%の企業が同措置を導入済みであり、さらに、70歳以上まで働ける制度のある企業は39.1%に達している。常用労働者数のうち、60歳以上の労働者は全体の13.5%にあたる約470万人。年齢別に見ると60~64歳が約254万人、65~69歳が約128万人、70歳以上が約88万人までそれぞれ増加した。
継続雇用希望理由は「生計の維持のため」(68.1%)が最も多いものの、次いで「能力・技術・資格・経験を活かすため」(48.5%)という理由がランクインしているほか、「仕事に生きがいを感じているため」(20.3%)「健康の維持のため」(17.4%)「社会とのつながりのため」(15.8%)も一定数存在している。ギレン氏の語るアメリカの状況と比べても、似たような光景が広がっているといえそうだ。
国連は2020年、「Decade of Healthy Ageing: 2021-2030」(健康的な高齢化の10年)という新たな取り組みを採択。人びとが健康的に歳を重ねることのできる社会の実現に貢献している世界のリーダー50人「The Healthy Ageing 50」を選出し、高齢化社会への模範的な態度と貢献を称えている
ダイバーシティ・マネジメントの苦悩
幅広い世代が職場に集うことで、課題として浮上してくるのが「多世代共生」の問題だ。日本の職場では2023年現在、「しらけ世代」「新人類世代」「バブル世代」「団塊ジュニア世代」「ゆとり世代」の最大5世代がひとつの職場に集っており、アルバイトなどの非正規雇用を含めると世代はさらに拡大する。
ギレン氏曰く、アメリカでは最大8世代がひとつの職場に取り込まれる可能性があるという。メディアでは日常的に世代間の分断・対立が報じられるなか、このような異なる世代の共存をどのように捉えるべきだろうか。
複数の世代が混在する職場は、カルチャーや価値観の差から摩擦や対立が起きると思われがちです。しかし実際は、世代によって能力が異なるからこそ、問題に対する多様な見方ができ、企業に競争優位性をもたらすことができるのです。
シニア世代には、若い世代にはない知識や経験があります。また、企業の文化・文脈を熟知しているので、新入社員が企業文化に適応する手助けをしてくれるでしょう。一方、認知機能は若い世代のほうが高いでしょうから、そこは若者の力を借りることができるでしょう。最近は、若い従業員が年上の従業員のメンターを務める企業も多くなってきました。
このようなチームの多様性は生産性・創造性を高めることが研究で明らかになっています。
例えば、BMWの調査によると「若い世代だけの組み立てライン」「シニア世代だけの組み立てライン」「世代混合の組み立てライン」のうち、「世代混合の組み立てライン」が最も成果を上げたことがわかったのです。BMWは5世代の労働者が協力しあう職場を実現するため、生産性や労働満足度を上げられるように工場やセクションを再設計し、世代の多様性をビジネスの強みにつなげています。
多様性はビジネスの成功に寄与するもの。そして、年齢・世代の多様性はその一部なのです。
日本では1990年代以降、おもに少子高齢化による人手不足の懸念から推し進められてきた「多様性」。法整備の状況をみても、出入国管理法の改正(1990)、育児休業法(1991)とその改正法である育児・介護休業法の成立(1995)、男女共同参画社会基本法の成立・施行(1999)、性同一性障害特例法の施行(2004)、男女雇用機会均等法の改正(2007)、障害者雇用促進法の改正(2018)など、この30年の間に、日本社会の多様性をめぐる状況は目まぐるしく変化した。
しかし、それらの法律が示すとおり、多様性というトピックで論じられてきたのはおもに性別、人種や国籍、障がい、性的マイノリティについてだ。世代の多様性がフォーカスされる機会は少なく、むしろ最近の風潮では、世代間の分断と対立が取り立たされる傾向も強い。
特に日本では「老害」という言葉が2010年代後半ごろから定着。キーワードの検索数(検索の総数から相対的に出された0〜100の値)の推移を見ることができる「Google トレンド」で調べてみると、2015年5月に初めて50を超え、2021年2月に100、つまり最も検索されている。これは東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長の女性蔑視発言が一大ニュースとなったタイミングだ。以降、シニア世代との分断・対立はメディアで色濃く描かれ、世代の多様性に対しては否定的な風潮すら漂っている。
Google トレンドのスクリーンショット。計測可能な2004年以降、「老害」の検索数は右肩上がりの傾向にあるといえる
しかし、企業の労働力確保や競争力維持を考えると、職場にシニア層を含めた多世代を取り込むこと、そして世代間の協業やそれに対する高度なマネジメントが必至となるのは想像に難くない。「Forbes」US版は2023年4月、多世代共生についての記事を公開し、「文化的、技術的、経済的に大きく異なる時代を生きてきた人びとが隣り合わせに働く」ことを前提として、それに基づく視点・経験が「イノベーションに影響を与える強大な力」となると述べている。また、このような職場で世代間対立を避けるための4ステップとして「対立がトラブルに発展する前に、公の場で偏見の解消に取り組む」「敬意を払い、オープンなコミュニケーションを奨励する」「世代を超えたコラボレーションを促進する」「継続的に学ぶ文化をつくる」ことを、ダイバーシティ・マネジメントのコツとして紹介している。
ギレン氏もまた、「Perennials」の普及における弊害はダイバーシティ・マネジメントにおいて起きる可能性が高いと話す。
わたしは、世代の多様性はビジネスに多くのメリットをもたらすと信じています。一方、デメリットがあるとすれば、それはマネジメントの難しさでしょう。
人事部としては、従業員を「人生の順序モデル」に当てはめて一律に対応するほうが簡単です。若者を採用し、皆に同じプロセスを歩ませ、定年を迎えたら退職してもらえばいいのですから。
それぞれの充実した働き方や学び方、生き方を支援するとなると、企業としてはマネジメントが難しくなりますし、人事評価制度も複雑化することでしょう。従業員の支援コストが高くつき、痛手だと感じる企業もあるかもしれません。変化を恐れ、惰性のままに組織を運営したいと思う人が多いことも容易に想像できます。
しかし、前述のようなメリットは競争優位性において重要なリターンとなりますし、何より、社会が刻一刻と変化するなかで、その変化に対応できない企業は業績を落とすことになりかねません。遅かれ早かれ、企業は世代の多様性に真剣に向き合わなければならなくなるでしょう。そうなれば社会全体が変わっていくと思います。
民間企業の取り組みはもとより、政府の労働政策も肝となってくる。前述のとおり、日本では定年後の再雇用が進み、多世代共生の環境が不可抗力的に構築されている一方、従来の雇用慣行は根強く残り、再雇用や非正規の従業員の待遇格差の合理性をめぐる裁判が多数行われている。
企業、政府ともに多くの課題が残る多世代共生。ギレン氏は、わたしたちはまだ「ポスト世代革命」(post-generational society)と呼ばれる変革の入り口に立っているに過ぎないと語る。
今後数年の間に、人びとはさらに激しい変化に晒されるでしょう。それはアメリカでも日本でも同じことだと思います。
しかし、1日ですべてを変えなければいけないわけではありません。企業であればまずはパイロットプログラムを立ち上げ、小さな変化を起こし、試してみることをおすすめします。その結果があなたの望む方向性かどうか、まずは確認する必要がありますからね。
それでも、個人的な体験ではありますが、変わっていくことはとてもリフレッシングな体験だと思っています。わたしは長らく大学教授として研究に打ち込んできましたが、その後、講演や本の執筆もするようになりました。最近はオンライン講師をするようにもなったんです。世界で起きている変化に対応しながら柔軟に変わっていくことで、若返ったような気分になりますし、活力も湧いてきます。きっと他にもたくさんできることがあるだろうと思うと、定年退職を考える暇もないほどです。長い人生を生きることになるわたしたちは、この状況をただ静観しているわけにはいかないのです。
BMWのエンジン生産工場の様子。2022年12月31日時点でBMWグループの従業員数は14万9475人。幅広い世代の従業員が職場で協業している
文化は何によって決定されるか
企業における多世代共生は、ギレン氏の指摘にもあるように人事制度や風土、そして法律などのレギュレーションの影響を受けるため、議論が複雑化してしまう。それならば、ボランタリーなコミュニティの取り組みから見えてくるものはないだろうか。ギレン氏のインタビューにも参加し、普段はフェスの企画・運営に携わっているWORKSIGHT外部編集員、葛原信太郎氏に話を訊いてみることにした。
葛原氏は、季節ごとに開催されるコミュニティフェス「earth garden」、ロックバンド「THEラブ人間」主催のカルチャーフェス「下北沢にて」、愛知県蒲郡市にて開催されている音楽とマーケットのイベント「森、道、市場」などの運営・企画に参加。各イベントには幅広い年齢層や多様な職業の人びとがボランティアとして参加しているという。
例えば「earth garden」では、わたしのような運営スタッフ15人ほどに対し、ボランティアメンバーは多いときで1日60人ほどが参加します。下は高校生、上は50代くらいでしょうか。テントの撤収作業などもあるので、今回のインタビューで言及されたような60代以上の人びとはあまり見かけませんが、それでも幅広い世代の方が参加してくれています。
ボランティアメンバーは10人前後のチームに分けられ、各チームはリーダーが取りまとめています。リーダーももちろんボランティア。多くは20代の方なので、チーム内では年上の方に指示を出すことももちろんあります。
直近の「earth garden “秋” 2023」は計2日間の開催。固定メンバーで中長期にわたるコミットメントが求められる企業と異なるからか、「多世代がいることによる大きなトラブルはほとんど経験がない」という。
ギレン氏のインタビューで「シニア世代の経験が重要になる」という話がありましたが、例えばインフォメーションを担当している若いメンバーが来場客対応に困っているシーンでは、40〜50代のメンバーが機転をきかせてくれたり、毅然とした態度で対応して窮地を救ってくれたりということも。
また、キッズエリアが設けられているフェスだと、来場者としても、子育てを経験している世代のスタッフがいることが大きな安心感につながるようです。
一方、高校生などの若い世代は体力があるので、元気よく仕事に取り組んでくれて、スムーズな運営に貢献してくれていますね。あと、30代以上の参加者からすると、そのような若い世代と交流する機会があまりないので、それ自体が新鮮な体験なんです。
それぞれの経験や能力を活かし、同時に補い合うボランティアメンバー。各チームの多世代共生を推進するために工夫している点はあるのだろうか。
ボランティアメンバー同士の壁を取り払うことが大事だと思います。朝はみんなでミーティングをしてきちんと顔合わせをしたり、ニックネームが書かれた名札を全員につけてもらいカジュアルに呼び合ったり。そのようなコミュニケーション、そして仕事に取り組んでもらうなかでお互いの能力や専門性などを認識し、自然とリスペクトのあるチームが実現しているように思います。
特にリーダーは熱量高くコミットしてくれており、孤立しそうなメンバーがいれば声をかけたり、次のリーダーとなりうる人材を育てたりなど、自発的に動いてくれているように思いますね。
運営本部として気をつけているのは、こちらの組織構造にボランティアメンバーを当てはめず、なんなら別物として考えるということ。運営本部は指示系統も明確で、かなり厳密に構造化されているのですが、ボランティアメンバーをそこに当てはめてしまうと彼らの自律性が大きく損なわれてしまう。したがって、ヒエラルキーにもとづくトップダウン的な進め方は避け、メンバーが「これをやってみたい」と提案してくれた際にはそれを支援できる、寛容な組織づくりに努めています。
このような姿はティール組織、あるいはその前段となるグリーン組織(多元型組織)に近しいのかもしれない。分散型組織は一般的に、そのような文化や考え方がすでに浸透していることが前提となるが、その時々で参加メンバーが異なるコミュニティではどのように実現してきたのだろうか。
前述のとおり、名札やミーティング、あとはスタッフ全員が利用するオープンスペースの設計など、工夫している点は多々あります。しかし、やはり一番大きいのは「ここはそういう場所だ」という認識を、長い時間をかけて醸成してきたことにあると思います。
特に「earth garden」は1996年から開催されており、5〜6年ほど継続参加しているボランティアメンバーもいます。年齢も性別も違う、異なるバックグラウンドをもつ人びとが互いにリスペクトしながら、オープンなコミュニケーションを図り、協力してフェスを成功させる。「そういう場所だ」ということがすでに浸透しているんです。
そう考えると、その場所の文化は経験者のふるまいによって決められると思います。新しく参加する人はそれを見て自分のふるまいを決定しますから。多世代共生という多様性を実現するにあたっても、同じことがいえるのではないでしょうか。
次週11月21日は、個人や小規模チームのクリエイターが手がける「インディーゲーム」をフィーチャー。『天穂のサクナヒメ』『PICO PARK』が100万本以上のヒットを記録するなど、空前の盛り上がりを見せているインディーゲーム。その背景や国内外の状況について、自身もインディーゲーム開発者であり、書籍『インディーゲーム・サバイバルガイド』の著者である一條貴彰氏に尋ねます。お楽しみに。
【新刊のご案内】
Photo by Hiroyuki Takenouchi
書籍『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』
言葉という情報伝達手段でありながら、普段わたしたちが使うそれとは異なるかたちで世界の様相を立ち上げる「詩のことば」。情報過多社会において文化さえも消費の対象とされるいま、詩を読むこと、詩を書くこと、そして詩の言葉にこそ宿るものとはいったい何なのか。韓国現代詩シーンの第一人者であり、セウォル号事件の被害者に寄り添ってきたチン・ウニョンへのインタビュー、映画監督・佐々木美佳による詩聖・タゴールが愛したベンガルでの滞在記、詩人・大崎清夏によるハンセン病療養所の詩人たちをめぐる随筆と新作詩、そして哲学者・古田徹也が語るウィトゲンシュタインの言語論と言葉の理解など、わたしたちの世界を一変させる可能性を秘めた「詩のことば」について、詩人、哲学者、民俗学者、建築家などのさまざまな視点から解き明かす。
【書籍詳細】
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』
編集:WORKSIGHT編集部
ISBN:978-4-7615-0928-6
アートディレクション:藤田裕美
発行日:2023年10月20日(金)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
判型:A5変型/128頁
定価:1800円+税