夜空にQRコード⁉︎ ドローンショーの国内トップランナーが語るエンタメ・広告・観光ビジネスの新次元
次世代エンターテインメントとして脚光を浴びる「ドローンショー」。その分野で日本の最前線に立つ株式会社レッドクリフの代表・佐々木孔明氏は、目まぐるしく進化する現代のドローンショーに、新たなメディアになりうる可能性を見いだしているという。数多のドローンが夜空にQRコードを描き出したとき、わたしたちはそれをエンターテインメントの枠だけに収めて語るべきなのだろうか。国内の第一人者に話を訊いた。
株式会社レッドクリフによる企業ロゴとQRコードの同時表示。「ドローンショーQR」は同社が商標登録をしている photo courtesy of REDCLIFF, Inc.
文化庁主催の「MUSIC LOVES ART 2024 -MICUSRAT-」では火の鳥を鮮やかに空へと描き出し、中国では現地メーカーと協力してギネス世界記録を更新。日本最大のドローンショー企業である株式会社レッドクリフは、そのクリエイティビティを活かし国内外で事業を展開している。代表の佐々木孔明氏は、学生時代からドローンに可能性を見いだし、2019年に同社を創業。当初はゴルフ場の空撮に始まり、現在はドローンショーに特化した事業会社として業界を牽引している。
2015年頃、ドローンは当時の技術革新の象徴として注目を集め、物流、農業、軍事技術などの産業分野において利用が加速した。しかし、一般利用における話題性は時間の経過とともに薄れ、その盛り上がりは次第に収束しつつあった。ところが、2021年の東京オリンピックの開会式でも話題を呼び、現在世界各地の大都市で開催されている「ドローンショー」が、現代のエンターテインメント産業に新たな展開をもたらしているという。
WORKSIGHTは、いま脚光を浴びているドローンショーに着目し、日本の業界のトップランナーである佐々木氏にインタビューを敢行した。すると氏の話から、ドローンショーが秘める、エンターテインメントの枠を超えた多彩な可能性が見えてきた。ときには巨大モニターとして、ときにはQRコードとして(!?)夜空に浮かび上がるドローンの集合体は、広告、観光ビジネスなどあらゆる分野の発展に寄与するかもしれない。日本の業界の現状から最先端を走る中国・深圳のショーの革新性まで、「花火の再発明」とも呼ばれているドローンショーの魅力と展望に迫る。
interview by Kei Wakabayashi, Ryota Akiyama
text by Hidehiko Ebi
photographs by Kaoru Mochida
佐々木孔明|Komei Sasaki 株式会社レッドクリフ代表取締役/CEO。1994年、秋田県秋田市生まれ。2019年、株式会社レッドクリフ設立。海外企業のドローンショーの空撮をきっかけに世界各地のドローンショーを視察し、2021年より国内最大規模のドローンショーを企画・運営。2024年8月、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024」に選出。
https://redcliff-inc.co.jp/jp/
はじまりはゴルフ場
──本日はよろしくお願いいたします。はじめに、なぜドローンショーに特化した会社を立ち上げたのか、その経緯についてお聞かせいただけますか。
もともとカメラやガジェットが好きで、学生の頃からドローンについてあれこれ調べていました。どうやらカメラを空に飛ばせると聞いて、当時ワクワクしたのを覚えています。大学では建築学部に在籍していたのですが、毎日のように図面、模型づくりを行う日々に疲れてしまい、2年間休学をしました。そのあいだにやりたいことをやりつくそうと、世界一周の旅に出ることを決意したのが2016年です。
──ちょうどドローンということばをよく耳にするようになった時期ですね。
肉眼で見る景色以上の映像を撮影できる。これは買うしかないと思い立って、ドローンを片手に旅をしました。当時はドローン規制も緩かったので、世界各地で自由に飛ばすことができました。
帰国後、世界最大手として知られる中国のドローンメーカー「DJI」が、新宿に日本1号店を出すという話を聞きつけて、オープニングスタッフに応募しました。最初はアルバイトとして、その後はDJIの代理店の正社員として働きました。そこでの経験をもとに、2019年に立ち上げたのが現在の会社になります。
創業当初はドローンの空撮会社として、主にテレビ番組、映画、ミュージックビデオ、そしてゴルフ場の撮影を担当していました。空撮で売り上げを上げるには、ひたすら数をこなすしかなく、日本にあるゴルフ場の約3分の1は弊社が撮影に携わったと思います(笑)。当時、空撮に特化した事業には持続性の限界を感じていました。
──ドローンショーに注目したきっかけは何だったのでしょう。
とあるイベントでドローンショーが行われるとのことで、そのショーの空撮を担当することになりました。そのとき初めてドローンショーを観賞したのですが、そのスケール感に惹かれまして。これまではインフラの維持管理や、物流、空撮で使われることが一般的でしたので、エンターテインメントとして活用するという新しい側面に感銘を受けました。
また、日本には大規模にドローンショーに取り組む企業がまだなく、ショーの主催者は海外企業と連携しながら日本にもち込んでいました。しかし、輸送費が高く、日本の航空局への飛行申請も厳しい上、技適(技術基準適合証明)や電波の認証、機体の登録・申請など、ショーを1回開催するためにはあまりにも多くの手続きが求められ、これは日本で内製化すべきだと感じました。 そこで、2021年にドローンショー事業を本格的にスタートさせました。
ドローンショーに取り組み始めた最初の年は約2億円の売り上げを達成し、翌年は倍以上に増やすことができました。2024年度は10億円を超える見込みです。従業員の数も、立ち上げ当初は7名でスタートしましたが、現在は30名を超えています。
──具体的に、どのような組織体制で運用されているのでしょうか。
機体を飛行させるオペレーターチーム、案件の進行役を務めるプロデューサーチーム、それからショーのデザインを担当するアニメーターチーム。主にこの3つのチームを編成しています。
アニメーターチームには、3DCGソフト経験者や専門学校出身者、そのほかゲーム開発に携わっていた人、不動産業界で建物のモデリングやCG、図面の作成を担当していた人などが所属しています。ドローンショー専用のツールも活用しますが、3DCGソフトと併用することで、表現に拡張性が生まれるんです。
夜空にQRコード
──ドローンショーに使う機体は、通常のものと違いがあるのでしょうか。
通常の機体にはカメラが付属していることが多いのですが、ドローンショー用の機体には代わりにLEDライトが付いていて、高精度の位置情報データが搭載されています。
ちなみに先ほど説明したDJIはドローン業界では世界最大手ですが、現時点ではこのようなドローンショー用の機体は取り扱っていません。
中国のドローンメーカー「高巨創新(High Great Innovation Technology Development Co.,Ltd)」のドローンショー専用機体「EMO」。「RTK」システムにより位置情報の誤差を数センチに抑えることができる
──ちなみに、墜落するリスクはどの程度あるのでしょうか。
どのメーカーの機体を使用するかによって異なりますが、弊社の場合、墜落に至ることはほとんどありません。各機体には安全機能が搭載されており、万が一エラーを検知した際は自動的に基地へ帰っていきます。そもそも、各機体にはそれぞれ飛行ルートが事前に決められているんです。そこで例えば強風が吹くと、自身の飛行ルートから外れたことを認識します。
──なるほど。ショーの演出に関する工夫も教えてください。
弊社では、LEDライトの点灯だけに収まらない演出の仕方を常に考案しています。花火搭載ドローンを用いて「火の鳥」を再現したり、機体にスモーク発生装置やレーザーなどを搭載したり、はたまた昼間や屋内でのドローンショーの可能性も模索したりしています。
さらに、ドローンで夜空にQRコードを浮かび上がらせることもできます。スマホをかざして読み込む、というアクションをお客さんに促すことができるんです。
昨年、横浜でドローンショーを実施した際に、QRコードを空に映し出したのですが、イベントの来場者数よりも多くのアクセス数を記録しました。近隣の方やSNSに投稿されたショーの写真に写っているQRコードを読み込んだ方など、来場者以外の方にもQRコードを読み込んでいただけたのだと思います。新しい広告のかたちとして、ドローンショーは今後も活用されていくのではないでしょうか。
花火搭載ドローンを用いたドローンショーのテスト飛行。2024年8月、大阪で開催された文化庁主催の「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT-」では、点描画家「GOMA」氏とタッグを組んで花火搭載ドローンを含む1000機のドローンを活用し「ひかりの世界・阪栄の火の鳥」を夜空に表現した
ドローンショーはメディアになりうるか
──今年9月、中国の建国記念日(国慶節)を祝うイベントで行われた深圳のドローンショーでは、10000機を超える数のドローンが使用され話題を集めました。近年のショーの進展について、佐々木さんは率直にどう感じられていますか?
深圳のショーの規模にはもちろん驚きましたが、ドローンがモニターの役割を果たしたり、文字を映してメッセージを伝えたりと、ある種のコミュニケーションツール、ないしメディアとして機能していることには以前から注目が集まっている印象です。
ドローンショーが開催され始めた当初は、いわゆる「ショー」だったんです。ところが近年では、ドローンショーを「エンターテインメント性の高い広告」として活用する事例が増えてきました。ここにひとつ、重要なポイントがあります。実はプロモーションなのに、お客さんを不快にさせることなく、一定時間ジャックできる。これって、他の広告手法ではなかなか難しいことだと思うんです。
いま、あらゆる場所に広告を打つのではなく、お客さんをファン化させながら関係性を築いていく「ファンビジネス」が多くの企業で進んでいますが、顧客の体験価値が非常に高いドローンショーはファンビジネスに適しているんです。今後は、エンタメとしてのツールを超えて、コミュニケーションを可能にする空のツールとして、当たり前のように活用されていくと考えています。
上(動画):深圳のドローンショー企業「大漠大智控(DAMODA)」は、今年9月に10197機のドローンを使用したドローンショーを開催。「1台のコンピューターによって同時に離陸したドローンの最多数」「ドローンによってつくられた空中パターンの最多数」というふたつのギネス世界記録を達成した/下(動画):今年12月、花火や爆竹の産地として知られる湖南省瀏陽市で行われた、花火とドローンショーのコラボレーション。人民網日本語版によると、流れ落ちる炎は天空からの涙を象徴しているとのこと
──それは技術革新も大きく影響しているのでしょうか。先ほど位置情報の正確性についてお話しいただきましたが。
技術の進歩の影響は非常に大きいです。位置情報に限らず、ドローンはいまあらゆる側面で進化しています。例えば、ひと昔前のショー用のドローンの飛行時間は10分が限界でしたが、現在は約20分間飛ばすことができます。近日中には飛行時間を40分に延ばそうと試行錯誤しているところです。
飛行時間が長くなると、ドローンショーで映画を観るといった新しい活用方法が可能になります。今年9月、弊社では7998機のドローンで巨大なディスプレイを上空につくり出しました。テレビやスマートフォンも結局はピクセルの集まりなので、ドローンも敷き詰めるとモニターとして綺麗に映像を映し出すことができます。極論、巨大モニターを毎夜空につくり出すことができるんです。
──ドローン業界に携わる方も、ドローンショーのもつ可能性に魅力を感じているのではないでしょうか。
そうだと思います。現状、ドローン業界は、航空法により禁止されている空域や飛行方法があるため、事業展開には一定の制約があります。他方、ドローンショーの場合、観客から離れた場所で飛行することが多く、航空法を遵守しながら多様な活用の仕方を試みることができます。
加えて、先に説明したような新しい広告としてのポテンシャルも大きなポイントです。ドローンショーは、これまでのドローンの市場の枠を超えて、屋外広告市場まで裾野を広げることができます。
屋外広告としてドローンショーを捉える。弊社の戦略はそこにあります。イベントとしてかなりスケールの大きい類になる分、 広範囲に、多くの方に向けてメッセージを届けることができますよね。例えば弊社では、ここ最近花火大会とコラボする事例が非常に増えているのですが、一夜にして何万人、何十万人規模の観客に向けてプロモーションできる機会はそうありません。
今年9月、株式会社レッドクリフと中国のドローンメーカー「高巨創新」の共同プロジェクトとして、ディスプレイの大きさの世界記録を更新したドローンショー
花火の時代は終わっていない
──深圳を中心とした中国のドローンショーも、主に広告ビジネスとして規模が拡大していったと言えるのでしょうか。
もちろん広告として使われる事例もあると思いますが、中国では観光コンテンツとしてドローンショーを扱っており、行政予算を投入するケースが多く見られます。祝日があればほぼ必ずと言っていいほどショーを開催している印象がありますし、「メディア」としてドローンショーを活用しようと、政府が意識的に働きかけている印象です。
──観光に活用するという観点で、中国以外に注目している事例はありますか。
まずはドバイですね。2020年に海沿いで商業施設が集まる「The Beach, JBR」のエリアを訪ねたんですが、毎日のようにドローンショーが開催されていました。シンガポールも同様に、世界屈指のリゾートホテル「マリーナベイ・サンズ」の近くでは頻繁にショーが開催されています。
欧米でもドローンショーはかなり盛り上がっています。特徴的なのは、スポーツとのコラボレーションでしょうか。ロサンゼルス・ドジャースのスタジアムでは、試合後にドローンショーがたびたび披露されますし、フットボールの試合終了後にもよく開催されています。「ドローンショー × 〇〇」といった、既存のコンテンツとコラボしながら広告ビジネスに展開させるケースが多いです。
──今年5月、リオデジャネイロにあるコパカバーナ・ビーチで行われたマドンナの無料公演には、推定160万人ものオーディエンスが集まったと言われています。そこまでの規模になると想像するのも難しいのですが、日本にもそれに類するものとして花火大会がありますよね。台東区の発表によると、今年は約91万人、前年は100万人を超える人が集まったとのことです。日本における花火って、やっぱり最強のフィジカルコンテンツですね。
花火は最強(笑)。そのとおりですね。
──あれだけの人を惹きつける花火の魅力は、果たしてどこにあるとお考えですか。
日本の伝統である点、コロナ禍といった特例がない場合は毎年開催している点、このふたつは重要なポイントかと思います。自治体側からすると、いかに市民へ還元できるか考えたとき、日本人の花火好きという感性にも合致する。あとはパブリックに開かれているところですかね。
ですが近年、花火大会の勢いは減少傾向にあります。物価高騰、自然環境への負荷、近隣への騒音問題、落下する燃えかすの危険性......。開催するにあたって問題点が多く、有料化すべきという声も上がっているのが現状です。
広告の観点から見ると、従来の花火大会では協賛企業名を読み上げたりパンフレットに掲載はしていますが、空を十分に有効活用するのは難しかった。そこでドローンショーとコラボすることで、夜空にロゴを映し出すことができますし、協賛企業にとっても宣伝効果の面で大きなメリットがあります。
SNSで「花火の時代から、これからはドローンの時代だ」というコメントを目にすることはよくありますが、弊社の場合は、日本の伝統文化としての花火の可能性を重要視しています。花火大会にドローンショーを導入することで、日本の伝統を持続可能なものにしたいと考えています。
広告、観光ビジネスの明日
──ドローンショー事業に落とし穴があるとすると、どんなところにあるのでしょうか。
ドローンショーは設備が常設されていないという観点から、現在は屋外広告物条例の対象外として考えられています。これが今後、飛行時間の伸長により、長時間にわたって広告を表示し続けられるようになれば、何かしら規制はされるだろうなと。景観条例を制定しているような地域では、ショーの開催を控えるよう規制をかけるケースもありうると考えています。
日本のドローンショー市場はまだ発展途上ですし、ドローンショーを前提としていない法規制を見直す必要もあると思い、今年7月に「一般社団法人日本ドローンショー協会」を立ち上げました。公共の秩序を維持するためのルールづくり、関連法規制に対して、的確な提言をしていきたいと考えています。
──少し話が逸れますが、今年の元日に発生した能登半島地震について「道路ががれきで塞がれてしまい、現地の様子がわかりません」という報道を耳にしたのですが......いや、ドローンを飛ばせば解決するのでは? と思うことが多々あるんです。佐々木さんは日本におけるドローンの現状の立ち位置について、どうご覧になっていますか?
日本はドローン活用に慎重な側面があり、何でもかんでも実証実験止まりというのがわたしの印象です。能登半島の災害支援活動にはドローンも使われましたが、効果的に活用されたと断言できるレベルにはまだ達していないと感じています。本来は国を挙げて稼働させるべきだと考えています。
十分な技術を備えたドローン操縦者は、日本にも数多くいるんですよ。それでも、実証実験しかやらせてもらえない状況が変わらない限り、プレイヤーによる新規事業や社会貢献の実現は難しいと考えます。2022年12月には、有人地帯での目視外飛行を指すレベル4飛行が制度化されたにもかかわらず、2024年12月の現在もレベル4飛行の事業化は実現されていません。技術的にはクリアしていても、法的には解禁されていない。
──そうなんですね。日本のドローン業界において、国からの支援は足りているとお考えですか。
足りていないですね。観光コンテンツ、ナイトタイムコンテンツが不足しているいまこそ、ドローンショーをバックアップしてほしいと心底思います。
それこそ東京都は、夜間の観光振興の活性化に向け、プロジェクションマッピングをはじめデジタルアートの活用にも取り組まれていますが、その選択肢のひとつとして、ぜひドローンショーを提案したいと思っています(笑)。
── たしかに!(笑)
日本のIPコンテンツを活かしながら、独自のドローンショーを多数展開できれば、たくさんのインバウンドの旅行者たちを惹きつけることができると確信しています。コミュニケーションツールとしても、広告の未来としても、そして観光誘致の観点からも、日本のドローンショーの動向をぜひ注視していただければと思います。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です
次週12月24日は、2024年に配信したWORKSIGHTニュースレターのおすすめ記事をピックアップしてお届けします。自律協働社会のゆくえを探るべく、分野を問わずさまざまなニュースレターを配信したWORKSIGHT。そのなかから、2024年の人気記事TOP10や、編集部員が選ぶおすすめ記事をご紹介します。お楽しみに。