ゲームという窓から見る社会:WORKSIGHTプリント版・22号「ゲームは世界 A–Z World is a Game」1月31日発行!【特別ニュースレター】
来る1月31日に発売される『WORKSIGHT[ワークサイト]22号 ゲームは世界 A–Z World is a Game』。AからZの計26個の関連ワードを切り口に、多様に拡張しつつ進化/深化するゲームから現代社会を見つめる最新号。その見どころを紹介します。
photographs by Hironori Kim
週刊のニュースレターを中心に「自律協働社会」のゆくえを探ってきたWORKSIGHTは1月31日、プリント版最新号『WORKSIGHT[ワークサイト]22号 ゲームは世界 A–Z World is a Game』を発行する。
「21世紀はゲームの時代だ」──。企画展「Worldbuilding: Gaming and Art in the Digital Age(想像の世界をつくりだす:デジタル時代のゲームとアート)」を担当した世界的なキュレーター、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが語ったことばはいま、現実のものとなりつつある。ゲームは、かつての小説や映画がそうであったように、社会を規定する経済的、政治的、心理的、そして技術的なシステムが象徴的に統合されたシステムとなりつつあるのだ。
それはつまり「ゲームを通して見れば、世界がわかる」ということではないだろうか。その仮説をもとに本号では、ゲームに関連するキーワードをAからZに当てはめ、計26本のコラムを展開。ビジネスから文化、国際政治にいたるまで、あらゆる領域にリーチするゲームのいまに迫り、同時に、現代におけるゲームを多面的に浮かび上がらせている。
巻頭ビジュアルを飾るのは、世界で最も売れたゲーム「Minecraft」で活動する建築集団・VARUNAの圧巻の作品群。企業や美術館などから依頼を受け、プロフェッショナルとして空間を築き上げる彼らの傑作をぜひ堪能してほしい。そのほか、ゲーム内で写真を撮る「バーチャルフォトグラフィー」に取り組む写真家4組の代表作や、フランスを拠点にオルタナティブコントローラーを生み出す「MechBird」の作品も紹介している。
また、寄稿/インタビューページには、YouTubeの大人気シリーズ「ゲームさんぽ」の始祖・なむ氏や、コロナ禍で”看取り”を記録してきたフォトジャーナリスト・小原一真氏、デジタル社会環境を研究するメディア美学者・武邑光裕氏、実験的なゲームやインスタレーションを開発するメディアアーティスト・木原共氏なども参加。以下、同誌の発売に先駆け、一部を抜粋してお届けする。
空間があるだけではデジタルコミュニティは生まれない。Robloxの勢いを支えているのは、何百万人というクリエイターがつくるコンテンツだ。(Digital Community「遊ぶはつくる。企業はコミュニティ」より)
「ゲームさんぽ」の手法は、美術館学芸員の世界ではよく知られている「対話型鑑賞」をベースとしている。言ってしまえば鑑賞の対象を絵画からゲームに変えただけなのだ。(Field Research「ゲームさんぽ:ゲームという模擬社会を歩く」より)
NVIDIAの革新性は、この技術をさらに転用したことにある。同社は大量のデータを並行して処理できるGPUの特性に注目し、この装置を画像や映像の処理以外に使う「GPGPU」という概念を打ち出した。(GPU「ゲームから始まった戦争」より)
ゲームでは、漫画や小説ではできなかったストーリーテリングが可能になる。考察をするという楽しみも含めた直線的ではないシナリオが、より求められるようになる。(Japanese Indie「講談社と集英社とインディゲームのあかるい未来」より)
追悼パレード当日、「FF14」内の都市国家「ウルダハ」に参列者は集った。バーチャル空間とリアル空間は接続され、それぞれが自分がいる場所からFerneの喪失を想った。(Obituary「葬儀・FF14・共同体」より)
ARG(代替現実ゲーム)もQAnonも、コミュニティに大きく依存している。QAnonでは、フォロワーが協力してメッセージを解読し、陰謀理論を共有し、その後の展開について議論する。(QAnon「代替現実ゲームと陰謀論の交差点」より)
今後AIと協働していく上で、ゲームは重要な役割を果たす。「安全な事故」を起こすことで、ヒトは表現の領域を拡張することもできる。(Tomo Kihara「AIのまちがいがヒトにもたらすもの」より)
多様に拡張しつつ、進化/深化していくゲームというフレームから現代社会を見つめる最新号。ぜひお手にとってご覧ください。
【目次紹介】
◉ Architects:マイクラのなかの建築家、というお仕事
エンタメから教育まで、ありとあらゆる分野で活用されているゲーム「Minecraft」には、さまざまな種類のブロックを組み合わせ、ゲーム内のマップ制作を専門に請け負うプロの建築集団が存在する。彼らが築き上げる新たな世界を旅してみよう。
◉ The Backrooms:巨大コンテンツとなった「不穏な部屋」
2018年、掲示板に投稿された黄色い部屋の画像。その不穏な空間はのちに「The Backrooms」と名付けられ、名だたるゲームやドラマの世界観に影響を与えた。ただの「背景」なのに、いまなお多くのクリエイターを魅了する巨大コンテンツ。その来歴とは。
◉ Convergence:21世紀はゲームによって統合される
21世紀はゲームの時代だと人は言う。しかし、それはいったい何を意味しているのか?映像、音声、テキストを統合するシステムとしてのゲーム/メタバースは、世界をどう変えるのか。本誌編集長・山下正太郎とコンテンツディレクター・若林恵が考える。
◉ Digital Community:遊ぶはつくる。企業はコミュニティ
子どもたちの間で絶大な人気を誇るゲーミングプラットフォーム「Roblox」では、遊び手とつくり手の境界は曖昧化していく。企業でありながらコミュニティでもある、Robloxネイティブのゲーム開発企業「Gamefam」に見る、クリエイターエコノミーの進化形。
◉ Eco-System:5万人の町がゲーム開発の聖地に
1000万本を売り上げたサバイバルゲーム「Valheim」や人気おバカゲーム「Goat Simulator」はスウェーデン南部の人口5万人の町・シェブデで生まれた。ゲームスタートアップの一大揺籃地となった小さな町に学ぶ、ビジネスエコシステムのつくり方。
◉ Field Research:ゲームさんぽ:ゲームという模擬社会を歩く
ゲーム好きからもそうでない人からも愛される実況動画「ゲームさんぽ」の始祖・なむさんは、ゲームはもはや「高度な模擬社会」であり「先進的なコミュニケーションテクノロジーの実験場」だと語る。参加型社会をひらく学びの場としての「ゲームさんぽ」の可能性。
◉ GPU:ゲームから始まった戦争
ゲームにおけるハイパーリアルな描写を実現すべく開発された「GPU」は、自動運転、ロボティクス、金融取引、創薬などの分野における技術革新の最も重要な「部品」となった。米中対立の焦点となっている「GPU」をめぐって、新たな戦争がすでに始まっている。
◉ University of Hertfordshire:ゲーム教育の最高峰で「リアルタイムスキル」を学ぶ
ゲームデザインの教育機関として高い評価を得る英国のハートフォードシャー大学。「リアルタイムスキル」と呼ばれる能力を身につけた学生たちは、ゲーム業界のみならず自動車から建築まで引く手あまただ。「リアルタイムスキル」の教育方法や社会的広がりについて指導にあたるニール・ギャラガー氏に聞いた。
◉ itch.io:プラットフォームは「拠り所」になれるか
2022年に4億本のゲームを販売した巨大プラットフォーム「Steam」の独占に抗って「クリエイターファースト」を貫く良心的インディゲームマーケット「itch.io」。インディ音楽の聖地「Bandcamp」を参考につくられた、小さくて豊かなプラットフォームの設計思想を考察する。
◉ Japanese Indie:講談社と集英社とインディゲームのあかるい未来
日本を代表する出版社2社が「ゲーム」の世界に参入する。編集者と作家が二人三脚で「漫画」というグローバルコンテンツを生み出してきた講談社と集英社が活路を見いだすのは、インディゲームを含む「ゲーム」の領域だ。その勝算について、各社の担当者に尋ねた。
◉ Karate Combat:その格闘技はもはやゲームです
一見「ストリートファイター」にしか見えない、デジタルネイティブな格闘技団体「Karate Combat」が若者たちの間で人気だ。DAOやトークン、ベッティングといった仕掛けを通じて注目を集める次世代プロリーグに見る、スポーツとゲームのラジカルな融合。
◉ Luxury Brands:ファッションDXとゲームコラボ
ラグジュアリーブランドとゲームのコラボが続く。ファッション業界の巨大コングロマリットまでもがゲームに接近するのは、顧客開拓やNFTマーケットだけが目的ではない。人材育成、技術開発支援にも乗り出したファッション産業の取り組みと、その背景を探る。
◉ MechBird:あるオルタナティブコントローラーの冒険
ゲームクリエイターたちのなかには、商業的な成功を求める者もいる一方で、自らの創造力で非伝統的なゲームコントローラーの世界に挑む者もいる。このオルタナティブな冒険に挑戦するパイオニアのひとり、フランスを拠点に活動する「MechBird」に迫る。
◉ Non Player Character:能なしのミームが「妖精」になるとき
この世で最も愚かなミームは、その中毒性から最も身近な存在となる。AIはそれをやがて「あなたの人生における信頼できる人物」へと変えていくかもしれない。SNS上に溢れかえる「ノン・プレイヤー・キャラクター」は、わたしたちをどんな未来へと導くのか。
◉ Obituary:葬儀・FF14・共同体
パンデミックは人の「生」だけでなく「死」にも大きな影響を及ぼした。臨終の立ち会いや葬儀は禁じられ「弔い」は宙吊りにされた。そんななか世界の人びとに共感と癒やしをもたらしたのは「Final Fantasy XIV」内のコミュニティが執り行った「葬儀」だった。
◉ Play The Game:遊びとゲームの本棚
現代社会のそこかしこに息づき、未来への鼓動を響かせる、ゲームという存在。その一端をつかみ、わたしたちが次のステップを刻むためには、ガイドが必要だ。広がっていくゲームの地平をマッピングし、プレイヤーたちを遥かなる旅路へ導く80冊のチュートリアル。
◉ QAnon:代替現実ゲームと陰謀論の交差点
重層的なストーリーテリング、コミュニティへの参加、謎解きの重視……陰謀論集団として悪名高き「QAnon」は、現実世界で展開された「代替現実ゲーム」なのか? メディア美学者・武邑光裕が読み解くゲームと陰謀論の際どい交錯。
◉ Random Access Movie:映画×ゲーム=名前のない物語
2022年、Steamをはじめ各プラットフォームで話題となった実写ミステリーアドベンチャー「Immortality」。手掛けたのは、実写映像を駆使した「Her Story」「Telling Lies」で知られるサム・バーロウだ。映画とゲームが融合したランダム・アクセス・ムービーの革新性とは?
◉ Serious Games:社会課題と向き合う11のゲーム
開発エンジンのコモディティ化などによりゲーム開発が手軽になり、テーマの多様化が進んだことで社会性の強いゲームが増加している。孤立と分断、マイノリティ、監視社会、メンタルヘルスまで、社会を映す鏡としてのゲームを紹介する。
◉ Tomo Kihara:AIのまちがいがヒトにもたらすもの
メディアアーティスト/ゲーム開発者の木原共は、ヒトがAIに触れ、今後AIと協働していく上で、ゲームは重要な役割を果たすと語る。「安全な事故」を起こすことで、ヒトは表現の領域を拡張することもできる。AIと人間、それをつなぐゲームの可能性。
◉ Unity/Unreal Engine:ゲームエンジンとアセット職人たち
オンライン化の趨勢によってゲームの開発・配信は劇的に「民主化」された。そしてゲームエンジンの一般化と「アセットクリエイター」たちの活動によってゲームづくりのハードルはさらに下がっていく。複雑化しながら豊かになっていく、ゲーム開発のエコシステム。
◉ Virtual Photography:ゲームのなかで写真を撮る、というお仕事
ゲームという異世界は未知なる光景に溢れている。その光景を目と記憶に刻みたいという欲求はやがて「ゲームのなかで写真を撮る」という行為を一般化し、すでにそれは職業にさえなっている。注目すべき4組の「写真家」の仕事を紹介する誌上ギャラリー。
◉ Worldbuilding:みんなが「世界」をつくり、群島をなす
SFやファンタジー小説の技術として語られてきた「ワールドビルディング」の語は、もはやゲームにとって不可欠のコンセプトとなっている。その概念の背後にある劇的な社会の変化を、世界に名だたるアートキュレーターのことばから読み解く。
◉ X:イーロンのゲーム実況とSNSの未来図
2023年の10月のとある晩にイーロン・マスクがXで配信したゲーム実況。それは、マスクが断行する改革において、どのような意味をもつのか。「かつてTwitterと呼ばれたWEB2ソーシャルメディア・プラットフォーム」はゲームクリエイターたちに何をもたらすのか?
◉ YouTuber:ストリーマーたちの大統領選
ゲームという巨大な産業エコシステムの重要な一翼を担う「ストリーマー」(配信者)。他ジャンルのインフルエンサーにひけを取らない影響力をもつにいたっている「ゲーム実況」は、すでにして大統領選の行方を左右するかもしれない政治的メディアになりつつある。
◉ Z:⌘Z
直前のコマンドを取り消すキーボードショートカット機能「⌘Z」をテーマに、『ここは鴨川ゲーム製作所』(バンブーコミックス)などで知られる漫画家・スケラッコが描き下ろした新作漫画を掲載。
【書籍詳細】
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]22号 ゲームは世界 A–Z World is a Game』
編集:WORKSIGHT編集部(ヨコク研究所+黒鳥社)
ISBN:978-4-7615-0929-3
アートディレクション:藤田裕美
発行日:2024年1月31日(水)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
判型:A5変型/128頁
定価:1800円+税