1カ月でゲーム開発者になれる時代?:「新たな自己表現」としてのインディーゲームの潮流を追う
大手ゲーム開発会社ではなく、個人や小規模チームのクリエイターが手がける「インディーゲーム」。技術的なハードルの低下やゲームエンジンの価格破壊によって、多くの人びとが新たな自己表現としてのゲームに関心を寄せ、インディーゲームはいま、空前の盛り上がりを見せている。国内のインディーゲームの現在地を解き明かすべく、インディーゲーム開発者支援事業に取り組んでいる一條貴彰氏に話を訊いた。
万華鏡の力で世界を変えながら進む3人称視点のアクションパズルゲーム『KALEIDOLA』。国内初のインディーゲーム開発者支援プログラム「iGi(indie Game incubator)」第3期プログラムに選出されたチーム「hayatoskie」による作品。© 2023 iGi indie Game incubator
ここ数年、個人や小規模チームなどのゲームクリエイターが手がける「インディーゲーム」が盛り上がりを見せている。
ふたり組のインディーゲームサークル「えーでるわいす」が開発した農業がテーマのRPGゲーム『天穂のサクナヒメ』は、発売から7カ月で世界累計出荷本数100万本を突破。ゲームデザイナー三宅俊輔氏が個人で開発した協力型アクションパズルゲーム『PICO PARK』は、2023年8月時点でSteamとNintendo Switchでの合計販売数350万本を突破している。また、個人ゲーム開発者のhako 生活氏が開発した『アンリアルライフ』は、第24回「文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門の新人賞を受賞するなど、社会的な認知度も高まっている。
インディーゲームはいかにしてこのような注目度や人気を誇るようになったのか。自身もインディーゲーム開発者であり、国内のインディーゲーム開発者の支援事業も行っている一條貴彰氏に、インディーゲームが広まった背景や国内の現状、世界各国のクリエイター支援状況などについて尋ねた。
interview & text by Koji Fukuda/Sayu Hayashida
一條貴彰|Takaaki Ichijo 株式会社ヘッドハイ代表取締役。個人ゲーム作家としてはインディーゲーム『Back in 1995』を開発し、2016年にSteamでリリース、2019年にNintendo Switch/PlayStation4/Xbox Oneに展開。ゲーム開発のかたわら、ゲーム開発ツール会社の営業職を務めていた経験を活かし、インディーゲーム開発者向けのツールやサービスを専門としたディベロッパー・リレーションズ事業を展開。2020年、インディーゲーム開発者専門のインキュベーションプログラム「indie Game incubator」の創設メンバーとして関わり、現在はアドバイザーを務める。2021年11月、書籍『インディーゲーム・サバイバルガイド』を上梓。2023年現在、”動画実況視聴者を巻き込む”ロボットアクションゲーム『デモリッション ロボッツ KK』を開発中。
“ゲームづくりの民主化”が起きた
──『PICO PARK』『天穂のサクナヒメ』といった100万本を超える大ヒット作も出ているインディーゲームですが、まず前提として、インディーゲームとは何を指すのでしょうか。
「小規模で独創的なゲーム」というニュアンスがあるのですが、実は明確な定義はありません。2021年に出版した、個人・小規模チームのゲーム開発者に向けたノウハウ本『インディーゲーム・サバイバルガイド』では便宜上、以下のように定義しました。
・プロジェクト発案者が中心的にプログラムを書くまたはゲームエディタを操作する
・プロジェクト開始時は自己資本が中心となっている
・開発者が表現したいことを重視する
あくまで個人的な意見にもとづく定義ですが、総じて「開発者がつくりたいものをつくっている」のがインディーゲームだと考えています。業務ではなく、自己表現としてのゲームですね。
──なぜ"自己表現としてのゲーム"が人気になったのでしょうか。
まず、インディーゲームは2010年代に北米・欧州の英語圏を中心に大きな注目を集め始めたのですが、個人が使用できるゲームエンジンなどのコモディティ化、Steamをはじめとするデジタル販売の販路の充実といった環境の変化にともない、ゲームづくりが身近なものになったことが挙げられます。まるで漫画家やシンガーソングライターのように、ひとりの開発者が自分の世界観をゲームで表現したものを、世界中に配信できるようになったのです。
同時に、スマートフォンをはじめとした運営型ゲームの台頭の影響もあるかと思います。毎週/毎月ゲーム内イベントを提供し、デジタルアイテムの課金を促す運営型ゲームは、いまのゲームビジネスで大きなウェイトを占めています。そうなるとゲームは作品というより継続的なサービスの側面が重要視されますし、会社に所属している以上は個人の作家性を発揮することが難しいので、ゲームの表現に可能性を感じている方たちが独立して活動を始めるというパターンが多くなってきています。
──開発環境面に着目すると、ゲームエンジンやデジタル販売プラットフォームによって“ゲームづくりの民主化”が起きたといえるのではないかと思います。この変化について詳しく教えていただけますか?
わたしがゲーム産業に入ったのは2010年なので、それ以前のことは人づてに聞いた話も含まれるのですが、1980〜2000年代はゲームを開発するためのハードルが高い時代でした。
まずはある程度のプログラミング技術が必要でした。1980年代からゲームプログラミングを指南する雑誌はあったので、独自にプログラミングや絵づくりを学び、個人で開発するという営みはありました。それでもマイコンと呼ばれる当時のコンピューターと技術力が必要だったので、環境がそろえられる人にしか扱えないようなものだったのです。
1990年代に入ると「RPGツクール」(第1作は「RPGコンストラクションツール」の名で発売された)、「Adobe Flash」(2020年をもってサポート終了)といったゲーム開発につながる各種ソフトが登場し、それを利用してゲーム開発に取り組み、インターネット上で無料公開するという流れが発生しました。ただ、開発面で大きな影響を与えた出来事といえばやはりゲームエンジンの無償化、そしてそれによるコモディティ化でしょう。
ゲームエンジンは、ゲーム開発に必要な機能を提供するソフトウェアパッケージを指します。例えば、わたしたちが文章を書くときは「Microsoft Word」、映像を編集するときは「Adobe Premiere Pro」などの専用ソフトを使いますよね。それと同じで、ゲーム開発のための機能が詰まっているのがゲームエンジンと呼ばれるもの。パソコン、スマートフォン、家庭用ゲーム機、VR機器など多種多様な動作環境に対し、2Dや3Dの絵を動かすための機能がそろっています。
ゲームエンジン自体は以前から存在していましたが、2000年代までは企業が内製して使っているか、ライセンス利用できるとしても100万円〜1000万円ほどの高額な利用料が発生したそうです。しかし2013年、ゲームエンジン「Unity」が個人・小規模開発者向けのモバイル用の機能を完全無償化し、さらに2015年には「Unreal Engine」というゲームエンジンも無償化されました。それによってゲーム開発のハードルが一気に下がったのです。
無料で誰でも使えるようになったことで、ゲームエンジンの使い方やゲーム開発に関連する記事・動画もインターネット上でたくさん公開されるようになりました。ツールがコモディティ化したことで、ゲーム開発のノウハウもよりオープンになり、ゲームづくりが民主化されたといえると思います。
Unityでゲームを開発するためのチュートリアル動画。大手ゲーム会社からインディーゲーム作家まで、幅広いゲーム開発者の支持を集めて急成長したUnity。2011年の日本経済新聞の記事によると、Unityは当時、すべてのオプションを購入しても5000ドルほどで、数万ドル単位が相場だったゲームエンジンに価格破壊を引き起こしたといわれる
──冒頭で「自己表現としてのゲーム」という話がありましたが、ゲームエンジンを誰でも使えるようになったことで、ゲームを表現手段として選ぶのはどのような人びとなのでしょうか。
幅広い層の方がゲームでの表現に取り組み始めています。例えば普段はゲーム業界以外で働いている方が、副業や趣味としてインディーゲーム開発者として活躍されている例もあります。特に、業務でCGなどを扱ったことのある方は「ゲームエンジンがあれば、これまで仕事でやってきたことをゲームとして表現できるのでは?」と思うきっかけもあったのでしょう。お堅いイメージのある銀行のシステムをつくっている方が個人でゲーム開発したという話も聞きましたね。
ゲーム技術が他業界へ転用されるケースも増えており、例えば医療では手術のシミュレーション、自動車販売では商談時に車両の色を変えられる3Dシミュレーターなどが挙げられます。エンタメだと、『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズ『マンダロリアン』は、セットの背景にUnreal Engineでつくった映像をリアルタイムで映し出して撮影されました。これはバーチャル・プロダクションという手法で、ゲーム技術が大いに活用されています。
国内で注目を集めたものといえば、東北芸術工科大学デザイン工学部映像学科教授の鹿野護氏が開発したオープンワールドゲーム『大歳ノ島』も話題となりました。これは東北の民俗伝承をテーマとしたゲームなのですが、大学というアカデミックな方面からもゲームづくりに参入される方がいらっしゃいます。
産学だけでなく、幅広い年齢層の参入も特筆すべき点です。いまは学生でもゲームづくりを始められる時代。日本ゲーム大賞2018「U18部門」で金賞を受賞したワイヤーアクションゲーム『モチ上ガール』は、2019年にパブリッシャー「Play,Doujin!」を通じてNintendo Switch向けにリリースされたのですが、開発者のmumimumi氏は当時大学1年生。学生がつくったゲームが人気を呼び、家庭用ゲーム機にも進出したという出来事は非常にエポックメーキングでしたね。
「ゲームをつくりたい」と思い立ったら、ソフトウェアをダウンロードし、チュートリアル動画を観て、すぐにつくり始めることができる。ゲーム開発に興味をもつ人や参入する層は本当に幅広くなったと感じていますし、キャリア、技能、年齢に関係なく、手を動かす人が活躍できる時代になってきたと思います。
(上)バーチャル・プロダクションが活用されている『マンダロリアン』シーズン1の舞台裏。同作品の50%以上はこの手法で撮影された。(下)東北の民俗伝承をテーマとしたオープンワールドゲーム『大歳ノ島』。Unreal Engineで開発。「ゲームメーカーズ」の記事によると、鹿野氏はデザイン関連の授業でゲームに言及していたものの、学生からゲームづくりの経験がないことを指摘され、まずは「ゲーム作りの基本的なところを体験してみようと作り始めた」という
──ちなみに、ゲームづくりを経験したことのない初心者が「とりあえず何か1本つくってみたい」となったとき、いまはどのくらいの期間がかかるものなのでしょうか。
ゲームの種類にもよりますが、シンプルな絵柄で、ワンボタンで進められるジャンプアクションゲームでしたら1カ月くらいかと思います。仕事をやりながらだともっとかかりますが、純粋に開発に集中できる期間が1カ月あればつくれるかと。最近ではノーコードでつくれるような環境も出てきていますしね。
Unreal Engineの「ブループリント ビジュアル スクリプティング システム」(以下「ブループリント」)のように、プログラミングコードを書かずにゲームがつくれる機能も増えています。これはゲームに必要なキャラクターの動きを指定したり、イベントを組み立てることを視覚的に追加していくことができるもの。フロー図のような見た目でわかりやすいため、以前のような技術的なハードルはだいぶ低くなりました。
Unreal EngineがYouTubeで公開しているブループリントのチュートリアル動画
日本は「独立ゲーム開発者」育成の後進国?
──デジタル販売のプラットフォームの登場も重要なファクターだとおっしゃっていました。こちらについても教えてください。
かつてはゲームを販売しようと思ったら、CD-ROMなどの物理的なソフトパッケージをつくる必要がありました。工場を稼働させないといけないし、流通経路も確保しないといけない。こちらもやはりハードルが高かったんですね。
──2000年代には比較的安価な制作が可能になり、同人ゲームでは『東方Project』『ひぐらしのなく頃に』などのヒットもありました。しかし、そのような作品はやはり即売会での頒布や限定的なダウンロード販売など、個別的な流通経路に限られていたと記憶しています。
その状況に変化をもたらしたのが、Steamなどのプラットフォームの登場でした。物理的な流通を介さず、プラットフォームでの簡単かつ広範囲なダウンロード販売ができるようになったことで、参入障壁が低くなったのです。
費用面では、iPhoneだと年間1万3000円ぐらいの開発者登録料を払えばApp Storeで販売できますし、Androidも同様に3000円ぐらいでの登録料で販売が可能です。Steamは、登録時に1回分のアプリ提出料(ゲームを含む自作アプリを登録するための料金)である100ドルを払い、その後はリリースする作品ごとに提出料を支払えばOKです。
──物理的なソフトをつくって店舗に流通させることを考えると破格ですね。
わたしが独立してゲームをつくり始めたのは2014年ごろですが、当時のSteamでは、販売されるタイトルがユーザーの投票によって決まるルールだったので、そこはひとつハードルがあったという印象でしょうか。スマートフォンでゲームを出すのが一番手軽だと感じていました。ただ、2017年にはSteamで投票による選別がなくなったので、審査はあるものの、登録料を払えば基本的には誰でもゲーム販売ができるようになったのです。
PCゲーム市場におけるSteamのポジションは圧倒的で、2022年には1万644本ものゲームが販売されました。また、Steamが発表した2022年の振り返りでは、総コンテンツ配信量は2021年と比較して36%増加し、合計44.7エクサバイトがダウンロードされたそうです。これは、地球上の80億人全員が5.5ギガバイトのゲームをダウンロードしたのと同じくらいのデータ量です。
──世界各地のゲーム開発者がSteamをはじめとするプラットフォームを利用していますが、国内と海外で、インディーゲームを取り巻く状況に違いはあるのでしょうか? 例えばeスポーツの分野では日本は後進国といわれることもあります。
ゲーム自体のクオリティや面白さ、新規性については国内と海外で差はなく、後進国ではまったくありません。しかしながら、産業側のシステムは大きく異なっているといえるでしょう。海外ではインディーゲームをつくるために独立してチームを組み、投資家やゲーム販売会社に資金を投資してもらって開発を進める仕組みが一般的なものとなっています。しかし、日本ではインディーゲーム開発者への投資や産業からの支援システムがまだまだ少ないです。
──なぜそうした違いが生まれたのでしょうか。
日本は、既存のゲーム開発企業とインディーゲーム作家との交流があまりないんですよね。なぜこうなってしまったのかはあまりよく知らないのですが、一説として、1970〜1980年代の日本のゲーム産業の影響が考えられています。
当時はゲーム会社同士のライバル意識が凄まじく、開発者の引き抜きを防止するため、スタッフロールの多くを偽名にしていることもあったと聞きます。その延長線上で、ゲーム会社と個人・小規模チームにあまり交流がない文化となってしまったのではないかと……。副業禁止という日本の雇用慣行も関係しているかもしれません。
また、海外と比べて、日本には新人クリエイターを育成する場所や仕組みが少なかったことも大きな違いです。欧米諸国や新興国では、国の重要な競争力とするべく、インディーゲーム開発者を支援する政策が多く見られます。日本はゲーム大国として知られていますが、行政側には残念ながらゲームを文化として認識している人がまだ少ないためか、そこまでの支援は実施されていませんでした。
ただ、先ほども申し上げたように、いまはゲーム業界以外のさまざまな業界の方がインディーゲームという文化に興味をもって参入する時代。人材育成もそうですし、「ゲーム産業内で分断しているような場合ではない」ということもいろいろな場面で1000回くらい言ってきました(笑)。株式会社ヘッドハイを立ち上げたのも、自分と同じ立場のインディーゲーム開発者と支え合いたいという思いからでした。
──一條さんの活動を含め、国内ではインディーゲームクリエイターの支援のためにどのような取り組みが行われているのでしょうか。
いま最も注力しているのはインキュベーションプログラムです。2021年2月に発足した、日本初のインディーゲーム開発者支援プログラム「iGi(indie Game incubator)」(以下「iGi」)では、インディーゲーム開発のエキスパートによるメンターセッションやトレーニングセッションを半年間完全無料で受けられます。また、ゲームの技術的側面や制作管理だけでなく、マーケティングや販売会社との交渉などをテーマとしたセッションも含まれており、技術面とビジネス面の両面で成長が期待できるプログラムです。わたしはiGiの創設メンバーであり、現在はアドバイザーを務めながらクリエイター支援に努めています。昨今では開発資金を出してインディーゲームを販売するコンテストなども実施されていますが、iGiはゲームを販売しません。その前段階で、そうしたコンテストや販売会社と渡り合うための知見を提供するものになります。
──iGiがモデルケースとしている国はあるのでしょうか。
2014年からスペイン・バルセロナで開催されている「GameBCN」をモデルとしています。GameBCNは、人材育成、ビジネス開発、プロダクショントレーニング、ネットワーキングイベントの4つの柱に重点を置いたインキュベーションプログラムです。さまざまなスポンサー企業からメンターとなる人材を集め、半年間で5チームを育成します。実績として販売本数50万本クラスのゲームがいくつか出ており、地元産業に貢献しています。
また、インキュベーションプログラムの世界的な成功事例としては「Sweden Game Arena」が挙げられますね。スウェーデン中南部のシェブデという小さな街で開催されているのですが、『Valheim』という世界的なヒット作を出しています。コンソールおよびPCで1000万本を売り上げたそうです。北欧神話をテーマとしたサバイバルゲームなのですが、何もない草原に家を築いたり、巨大なクリーチャーを倒して装備をアップグレードしたりなど、やりこみがとても面白い作品です。ちなみに、創設メンバーも多くがインディーゲーム開発者で、『Goat Simulator』というヤギがすべてを破壊するシュールなゲームの開発者も加わっています。
最近はインドネシア、マレーシア、フィリピンなど、東南アジア諸国のインキュベーションプログラムにも注目が集まっています。まだヒット作は現れていませんが、そのうち出てくるでしょう。
(上)バルセロナで開催された欧州最大級のスタートアップイベント「MWC-4YFN 2023」に参加するGameBCNのコーディネーター、オスカー・サフン氏。かつて工業地帯だったバルセロナは、EU加盟を機にIT・通信関連の企業を積極誘致。その結果、いまでは『キャンディークラッシュ』のKing.com、ゲームメーカー世界大手のUbisoft、そしてバンダイナムコエンターテインメントもオフィスを構えており、ゲームの聖地ともいわれている。(下)あまりのカオスっぷりとシュールさに世界中で話題となった『Goat Simulator』。ゲーム実況動画も多数上がっている
「睡眠は大事です(笑)」
──国内からもより多くのヒット作が生まれるといいですね。
そうですね。一方で、個人的には世の中のコンテンツすべてが大ヒットする必要はないと思っているんです。ニッチな作品だけど固定のファンがいて、その関係性のなかで新しい創作が生まれていくようなサイクルがもっと生まれたらいいなという思いも。『インディーゲーム・サバイバルガイド』を書いたときも創作の持続性を重要視していました。ただ完成させるだけでなく、「作品からどのように収益を得て、どのように次作につなげるか」といったことも視野に入れた、インディーゲーム開発者とのノウハウの交換ができればと思っています。
──持続性でいうと、本のなかのhako 生活さんとおづみかんさんの対談では「朝ちゃんと起きて、夜には寝る」という話も(笑)。
睡眠は本当に大事です(笑)。本書には「インディー活動に必要な、ゲームデザイン『以外』をすべて網羅。」というキャッチコピーがついているのですが、それこそビジネス面も含め、世知辛い話もたくさん書いています。
誰でもゲームを販売できるようになったのはいいことでもあるのですが、同時に「インディーカリプス」(インディーゲームの「インディー」と、終末的な意味合いをもつ「アポカリプス」からなる造語)と呼ばれる過当競争などの問題も起きています。せっかくゲームをつくって販売しても、特に年間1万本以上ものタイトルがリリースされているSteamでは埋もれてしまうのです。独立したにもかかわらず生計を立てられず、企業勤めに戻るというクリエイターも増えるでしょう。1本だけつくってみる場合はいいのですが、ゲームを長くつくり続けたいと思ったとき、競合調査や予算管理、PRに至るまでさまざまな知識が必要となります。そのための本なのです。
──まさにインディーカリプス的な状況を「サバイバル」するための「ガイド」なのですね。
そうですね。最初にお話ししたとおり、日本の個人・小規模ゲームクリエイターが、自己表現としてのゲームを持続性のある方法でつくり続けるためのサイクルがつくれたらと思います。
わたしは、ゲームが他のメディアと最も異なる点はインタラクティブ性だと考えています。例えば、自分の息子が癌になり亡くなるまでの心情の変化を表現した『That Dragon, Cancer』というインディーゲームがあるのですが、プレイヤーは主人公の感情を追体験することができる。映画や写真でも可能なのかもしれないですが、やはり自分自身で操作し、それに対して反応が返ってくるというインタラクティブ性のなかでストーリーを進めていくことが、その事象への直感的な理解につながるのではないかと思います。
それはゲームならではの表現といえるでしょうし、クリエイターの「つくりたいものをつくる」という自己表現において、重要な手法のひとつになると考えています。そして、そのゲームならではの性質が社会に浸透していく過程で、ゲームは世界に変化をもたらすのかもしれません。
『That Dragon, Cancer』の公式リリーストレーラー。末期小児がんを患ったジョエル・グリーンの4年にわたる闘病を、約2時間の詩的でイマジネーティブなゲームで綴っていく没入型アドベンチャーゲーム。開発チームのグリーン夫妻が、生後12カ月で末期がんと診断された息子ジョエルを育てた経験に基づく自伝的作品だ
次週11月28日のニュースレターのテーマは「墓守のリアリティ」。家制度が規定された明治期以降、先祖代々受け継がれるものとして広く定着した「家墓」。しかし近年、少子化などの社会的背景や「子孫に迷惑をかけたくない」という墓守観の変化から永代供養墓を選ぶ人も少なくない。弔いのあり方、そして現代の家族観について、立命館大学で家族社会学を研究する筒井淳也氏に伺う。お楽しみに。
【イベントのご案内】
Photo by Hiroyuki Takenouchi
トークセッション「一冊の詩集が生まれるまで」
10月20日に刊行した最新刊『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』の関連イベントとして、出版社・ナナロク社の代表、村井光男さんをゲストにお迎えし、WORKSIGHT編集部によるトークセッションを高円寺の蟹ブックスにて開催いたします。
詩集、短歌、その他数多くの書籍を手がけるナナロク社。イベントでは、詩集の編集・制作や若手詩人の発掘など、日本の「詩」を取り巻く状況について尋ねながら、詩人と社会の関係性についてディスカッションを行います。日本において「詩」はどのように読まれているのでしょうか。また、短歌や若手詩人の詩集はどのくらいのマーケットをもっているのでしょうか。
詩集や短歌を買い求める方も多いという蟹ブックスを会場に、詩心の重要性を謳い、魅力的な本をつくり続ける村井さんと、「詩」がもつ力について考えます。ぜひお越しください。
【イベント概要】
■日時:
2023年12月6日(水)20:15〜21:45
■会場:
蟹ブックス
東京都杉並区高円寺南2-48-11-2F
※オンライン配信あり
■出演:
村井光男(ナナロク社代表)
宮田文久(WORKSIGHTシニア・エディター)
若林恵(WORKSIGHTコンテンツ・ディレクター/黒鳥社)
■チケット(税込価格):
①会場参加チケット:1,500円
②オンラインチケット:1,000円
【新刊のご案内】
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書籍『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』
言葉という情報伝達手段でありながら、普段わたしたちが使うそれとは異なるかたちで世界の様相を立ち上げる「詩のことば」。情報過多社会において文化さえも消費の対象とされるいま、詩を読むこと、詩を書くこと、そして詩の言葉にこそ宿るものとはいったい何なのか。韓国現代詩シーンの第一人者であり、セウォル号事件の被害者に寄り添ってきたチン・ウニョンへのインタビュー、映画監督・佐々木美佳による詩聖・タゴールが愛したベンガルでの滞在記、詩人・大崎清夏によるハンセン病療養所の詩人たちをめぐる随筆と新作詩、そして哲学者・古田徹也が語るウィトゲンシュタインの言語論と言葉の理解など、わたしたちの世界を一変させる可能性を秘めた「詩のことば」について、詩人、哲学者、民俗学者、建築家などのさまざまな視点から解き明かす。
【書籍詳細】
書名:『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば Words of Poetry』
編集:WORKSIGHT編集部
ISBN:978-4-7615-0928-6
アートディレクション:藤田裕美
発行日:2023年10月20日(金)
発行:コクヨ
発売:学芸出版社
判型:A5変型/128頁
定価:1800円+税