暗黒の森にさまよう名作迷作50選|はじめてのフォークホラー【後編】
ロバート・エッガーズの『ウィッチ』、アリ・アスターの『ミッドサマー』によって火がついた「フォークホラー・リバイバル」。古今東西の映画史的名作から、2022年の大ヒット作にまで続く、フォークホラーという隠された血脈を50本の作品からたどる、若林恵(黒鳥社)による夏の納涼自由研究の後編です。
「フォークホラー」は簡単にいえば、「フォーク=民俗的」な怪異をモチーフにしたホラーということになるが、本稿のパート1「魔女、ストレンジャー・シングス、憑在論:はじめてのフォークホラー【前編】」で見た通り、その射程はフェミニズムから植民地主義、現代カルトからマーク・フィッシャーの憑在論へともつながる、極めて広範な射程をもっている。そして、そうやって射程を広げていくと、今度は「あれもこれもフォークホラー」となって、その本質(が何なのかを特定するのが実際難しいわけだが)を見失ってしまいかねないきらいもある。そこで、ここでは主に、前編でも紹介した2021年の傑作ドキュメンタリー『Woodlands Dark & Days Bewitched: A History of Folk Horror』に登場する作品を中心に、筆者が勝手に選んだ追加作品なども加えながら、50作品を紹介することで、フォークホラーがどういったものか感覚的につかんでいただきたい。
selection & text by Kei Wakabayashi
【フォークホラーの歴史を学ぶ】
「フォークホラー」を語る上で、今後最も参照されることになるであろう重要ドキュメンタリー。100本以上の作品が次々と紹介される圧倒的な情報量ゆえ、見る際には必ずメモを用意のこと。
1|Woodlands Dark & Days Bewitched: A History of Folk Horror
2021|アメリカ|Kier-La Janisse
「フォークホラーって何?」という問いに3時間にわたって答える、この2021年のドキュメンタリーこそ、フォークホラー・リバイバルのもしかしたら最大の果実といえるのかもしれない。多彩な視点から世界の「フォークホラー」を紐解く圧巻の3時間。DVDで購入可能。
【邪悪な三位一体:フォークホラーの元祖】
フォークホラーの元祖として聖壇に祀られる3本の重要作がこちら。いずれも英国映画史においてカルト的に語られてきた作品だが、「フォークホラー」の語の広がりとともに文句なしの重要作として扱われるようになっている。
2|The Witchfinder General
1968|イギリス|Michael Reeves
17世紀英国の魔女狩りを主題としたフォークホラーの元祖的作品。「魔女審問官」として任命されたと偽っていた弁護士マシュー・ホプキンスの残虐な魔女狩り活動と、婚約者を奪われた兵士の復讐を描く。
3|The Blood on Satan's Claw|鮮血!! 悪魔の爪
1971|イギリス|Piers Haggard
18世紀初頭の英国の農村が舞台。ある農夫が、畑に埋められた異形の頭蓋骨を発掘したことから、村の子ども・若者たちが次第に悪魔に魅せられ、次第に殺人へとエスカレートしていく。
4|The Wicker Man|ウィッカーマン
1973|イギリス|Robin Hardy
★Amazon Prime Videoで視聴可
キリスト教を捨て、人びとがケルトの異教を信仰している島にやってきた警官が、やがて悲惨な結末を迎える本作。アリ・アスター監督『ミッドサマー』のあちこちに、その影響をみて取ることができる。
【脚本家ナイジェル・ニールの系譜:Sci-Fiフォークホラーの源流】
フォークホラーの歴史を考える上で、脚本家ナイジェル・ニールの仕事は外せないとされる。フォークなものとSci-Fiとを結びつけた異才の系譜は、実に現代にまでつながっている。
5|The Stone Tape
1972|イギリス|Nigel Kneale(脚本)
「邪悪な三位一体」期のフォークホラーと科学テクノロジーを交配させ、新たな活路を開いた重要人物としてナイジェル・ニールはフォークホラー史において重要な位置を占める。エレクトロニクスメーカーの研究員が怪奇現象に遭遇する本作は、怪異とメディアテクノロジーの関係を浮かび上がらせる。
6|Halloween III: Season of the Witch
1982|アメリカ|Tommy Lee Wallace
「ハロウィーン」シリーズの主人公であるマイケル・マイヤーズが登場しないことから、注目に値しないとされてきた駄作だが、カルチャーメディア「Cultural Gutter」の記事は、本作をフォークホラーと『ストレンジャー・シングス』とをつなぐミッシングリンクとみなしている。
7|Phantasm
1979|アメリカ|Don Coscarelli
★U-NEXTなどで視聴可
フォークとホラーとSci-Fiが交錯する1979年のカルトホラーは、古代の異教的なものと未来的なテクノロジーとをつなぎあわせ『ストレンジャー・シングス』へとつながっていく鉱脈を拓いた。リマスター版のトレイラーを見れば、その親近性は明らかだ。
8|Stranger Things|ストレンジャー・シングス 未知の世界
2016〜|アメリカ|Duffer Brothers
本作をフォークホラーとして位置づけていいものかどうかが正直かなり微妙なところだが、前編で見たように、フォークホラーが織りなす錯綜したコンテクストに、ところどころ近接するのはたしかだ。
【世界映画史のなかのフォークホラー】
フォークホラーは英国発祥とされるが、「フォークホラー」というスコープを通して映画史を見直してみると、民俗的な怪異をモチーフにした映画は、世界中に見出すことができる。フォークなもの、ホラー/怪異なものへの眼差しは、映画というメディアのなかに最初からずっと埋め込まれていた、ということなのかもしれない。
9|Häxan
1922|スウェーデン|Benjamin Christensen
1922年に制作されたサイレント映画でタイトルは「魔女」の意。魔術、悪魔崇拝の歴史を描いたドキュメンタリーとフィクションのハイブリッドで、1968年に米国で公開されたときのタイトルは、「Witchcraft Through The Ages」(歴史のなかの呪術)。
10|The White Reindeer
1952|フィンランド|Erik Blomberg
フィンランドの先住民族サミの神話・シャーマニズムを描いた傑作。1953年のカンヌ映画祭ではジャン・コクトー率いる審査員によって「Best Fairy Tale Film」を受賞した。
11|Shadows of Forgotten Ancestors |忘れられた祖先の影/火の馬
1965|ソビエト|Sergei Parajanov
『ざくろの色』『アシク・ケリブ』などで知られる天才セルゲイ・パラジャーノフの初期の代表作。ウクライナ南部を舞台に、山岳民族フツルのふたつの家系の対立、怨念を、その背後に流れる魔術的な文化とともに描く。
12|Onibaba|鬼婆
1964|日本|新藤兼人
ジャパニーズ・フォークホラーの代表的作品としてよく紹介されるのが、新藤兼人監督のこちら。南北朝時代の田舎が舞台。通りかかった侍を殺し身に着けているものを剥いで生計を立てる女と、その義理の娘の捻れた関係を描く。同監督の68年の作品『藪の中の黒猫』と併せて言及されることも多い。
13|Kwaidan|怪談
1965|日本|小林桂樹
日本のフォークホラー物語に魅せられ収集したラフカディオ・ハーン/小泉八雲の『怪談』から「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」、『骨董』収録の「茶碗の中」の計4話を映像化したオムニバス。海外のフォークホラー関連記事で言及されることの多い日本の代表作。
14|Markéta Lazarová|マルケータ・ラザロヴァー
1967|チェコスロヴァキア|František Vláčil
★2022年7月2日より日本公開中
https://marketalazarovajp.com
チェコ映画史上最高傑作との呼び声も高い、チェコ・ヌーヴェルヴァーグの重要作。13世紀を舞台にボヘミアの神話的世界を映像のなかに甦らせる。小説家・音楽家の中原昌也さんは「黒澤もタルコフスキーをも超えた、ゴスもサイケデリックも含んだ鮮烈な叙事詩」と激賞。ホラーと呼ぶのは難しいかもしれないが『Woodlands Dark & Days Bewitched』にも登場する。
15|Viy|妖婆 死棺の呪い/魔女伝説・ヴィー
1967|ソビエト|Konstantin Yershov, Georgi Kropachyov
ニコライ・ゴーゴリの中編小説「ミルゴラド」を原作としたソビエト産フォークホラーの代表的作品。B級ホラーテイストが漂う邦題に惑わされるが、手づくり感溢れる特撮や独特の色彩感覚は、実にファンタジックでアーティスティックでもある。
16|Texas Chainsaw Massacre|悪魔のいけにえ
1974|アメリカ|Tobe Hooper
★HULU、Amazon Prime Video等で視聴可
「スラッシャー」と呼ばれるジャンルを創始し、映画史的にも重要作と目されるトビー・フーパー監督の伝説的ホラーは、テキサスという土地に煮詰められた狂気・狂信が発露する「フォークホラー」として新たに評価することができるのだ。
【フォークホラー再興への伏線】
「フォークホラー」はことばとしても、またジャンルとしても一般に認識されることもなく映画の歴史のなかに長らく埋没してきたが、その系譜は着実に80年代、90年代、そして00年代にまで、ひそやかに継承されてきた。いまにして見れば、これもフォークホラーと言えるのかもしれない、そんな作品を振り返ってみよう。
17|The Serpent and the Rainbow|ゾンビ伝説
1988|アメリカ|Wes Craven
★YouTube, Apple TV等で視聴可
『エルム街の悪夢』『スクリーム』シリーズで知られるホラーの巨匠ウェス・クレイヴンの88年作品は、ゾンビを研究するためにハイチを訪れた人類学者が主人公。ヴードゥー教に根ざしたハイチの民俗をふんだんに描いたメタ・ゾンビ映画として興味深い一品。
18|The Juniper Tree|ビョークの「ネズの木」~グリム童話より
1990|アイスランド|Nietzchka Keene
アイスランドの歌姫ビヨークの初映画主演作としても知られる本作は、グリム童話を中世アイスランドを舞台に翻案したもの。魔女裁判により母親を殺され、やがて自身のなかの魔力に気づいていく主人公を演じるビヨークが可憐。
19|The Craft|ザ・クラフト
1996|アメリカ|Andrew Fleming
★U-NEXT、Apple TV等で視聴可
90年代のハイスクールティーン映画のフォーマットに「魔女」「魔術」といったコンセプトを唐突にミクスチャー。ハイスクールという格差社会のヒエラルキーを転覆するために呪術をもちいるいじめられっ子女子4人組の復讐譚は、いまから観ると「#Witchtok」ブームの先駆けと言えなくもない。
20|The Blair Witch Project|ブレア・ウィッチ・プロジェクト
1999|アメリカ|Daniel Myrick、Eduardo Sánchez
★U-NEXTで視聴可
世界中で一世を風靡した90年代を代表するホラーも、現在ではフォークホラーの文脈で取り上げられることが多い。ファウンド・フッテージが怪異の入り口となる当時としては画期的・斬新な手法は、フォークホラーとメディア技術の関係を考える上でも重要な位置を占めている。
21|Wisconsin Death Trip
1999|アメリカ|James Marsh
19世紀末のアメリカ中西部の暮らしを再構築した同名の1973年のノンフィクション書籍を映画化したドキュドラマ。過酷な経済状況、疫病、メンタルヘルス、犯罪など、現在にも通じる進歩から取り残されたアメリカの姿を描き、フォークホラーのみならず猟奇犯罪ものやクライムミステリーのイメージの源泉となっている。サントラを手がけたのはDJ Shadow(エンドクレジット部分はJohn Cale)。
22|NOROI:The Curse|ノロイ
2005|日本|白石晃士
海外のフォークホラー映画リストにも頻出する重要作。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に連なるフェイクドキュメンタリーの手法のみならず、土俗的な怪異の噴出と、ダム建設によって水底に沈んだ村をむすびつけ、『Wisconsin Death Trip』で描かれたような「進歩から取り残された空間」をめぐる作品として『Woodlands Dark & Days Bewitched』では紹介される。
23|The Skeleton Key|スケルトン・キー
2005|アメリカ|Iain Softley
★Amazon Primeで視聴可
廃墟と化した屋敷を舞台に繰り広げられるサザンゴシックホラーは、ニューオリンズの文化の奥底に眠るヴードゥー呪術をめぐる作品ともなっている。呪いの起点となるのが、古いアナログレコードであるところも興味深い。
【フォークホラー・リバイバル】
いよいよ近年のフォークホラー・リバイバルに関わる作品を紹介していくこととなるが、ここでは、「フォークホラー」の語が改めて浮上する契機となった2010年のBBCドキュメンタリー『History of Horror』前後をもって「リバイバル」の端緒と見做すことにしよう。
24|Wake Wood|ウェイク・ウッド〜蘇りの森
2009|イギリス・アイルランド|David Keating
英国の田舎の田園風景。そこに引っ越してきた、傷を抱えた主人公。死者を蘇らせる呪術。不気味な家畜たち……古典的フォークホラーの文法を踏襲した2009年作品。
25|The Kill List|キル・リスト
2011|イギリス|Ben Wheatley
殺し屋をめぐるクライムサスペンスと、不気味なカルト組織をめぐるホラーとを巧みに交錯させた現代フォークホラーの重要作。
26|The Village|ヴィレッジ
2012|アメリカ|M. Night Shyamalan
『シックス・センス』で世界の度肝を抜いたナイト・シャマラン監督が19世紀末のアメリカの孤絶した村と、そこと接する不気味な森を描いたなんとも言えないホラー/スリラー。シャマランらしく、あっと驚くどんでん返しが最後に待っているのだが……。
27|Jug Face|ザ・サスペリア〜生贄村の惨劇
2013|アメリカ|Chad Crawford Kinkle
現在も生贄の儀式が行われている孤絶した森の奥のとある村。ある陶芸家が焼いた壺に顔が現れると、その人物が儀式の犠牲となる。自分の顔が壺に現れたことを知った(上のサムネール画像がまさにそのシーン)主人公は、命懸けの逃亡を決意する。
28|The Borderlands
2013|イギリス|Elliot Goldner
13世紀より続く教会で起こる超常現象を調査すべくヴァチカンより派遣された3人の恐怖体験を描いた「ファウンド・フッテージ・ホラー」。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来の重要作との賛辞も。
29|Demon
2015|ポーランド|Marcin Wrona
結婚式直前に庭で謎の白骨死体を見たことから、ある女性のイメージを幻視するようになり、やがてその霊に取り憑かれてしまう青年が主人公。中世のユダヤの民間信仰ディブクを下敷きに、第2時大戦におけるポーランドのユダヤ人の深層心理を寓話的に描く。
30|The Witch|ウィッチ
2015|アメリカ|Robert Eggers
★Amazon Prime Video、U-NEXT、Apple TV等で視聴可
ロバート・エッガーズが入植時代のアメリカを舞台に描く、フォークホラー・リバイバルの代表作と呼ぶべき傑作。森に棲む悪魔によって次々と家族が奪われていく、孤立した一家を蝕む恐怖を描きだす。ヤギが怖い。人気女優アニャ・テイラー=ジョイのデビュー作。
31|By Our Selves
2015|イギリス|Andrew Kotting
サイコジオグラフィ(心理地理学)の大家として知られるイアン・シンクレアの仕事にインスパイアされたノンフィクションと幻想とが交錯する映像詩。英国詩人ジョン・クレアの、1841年に精神病院から愛する女性を探して歩いた90マイルの道行きを、名脇役俳優トビー・ジョーンズがたどり直す。
32|The Wailing|哭声/コクソン
2016|韓国|ナ・ホンジン
★Amazon Prime Video、Apple TV等で視聴可
韓国ホラーにおいて民俗やキリスト教を含めた宗教は欠かせないものでもあるが、フォークホラーの代表として欧米で真っ先に言及されるのは本作だ。伝統的な悪魔祓いの儀式の激しさは、それだけで十分に怖いが謎の日本人を演ずる國村隼の演技も不気味。監督のナ・ホンジンは絶賛大ヒット中のタイ製ホラー『女神の継承』の原案・制作を手がける。
33|Pyewacket|ブラック・ウィッチ
2017|カナダ|Adam MacDonald
★Amazon Prime Video、U-NEXT等で視聴可
黒魔術やオカルトに魅せられたティーンエイジャーが、母親との口論をきっかけに悪霊「パイワケット」を召喚し、母親に呪いをかけたことから思いもせぬ恐怖を体験することとなる。「パイワケット」は『Witchfinder General』のモデルである偽魔女審問官マシュー・ホプキンスが魔女を裁くにあたって問題視した「使い魔」のこと。
34|The Ritual|ザ・リチュアル〜いけにえの儀式
2017|イギリス|David Bruckner
★Netflixで視聴可
英国の4人の男性がスウェーデンの山奥で目撃する謎の儀式と恐怖体験を描く。北欧の美しい自然は、不気味や恐怖と隣り合わせなのだ。
35|Errementari: The Blacksmith and the Devil|エレメンタリ~鍛冶屋と悪魔と少女
2017|スペイン|Paul Urkijo
★Netflixで視聴可
バスク地方に残る民話をもとに制作された、ホラーというよりはダークファンタジー。ひよこ豆を見ると数を数えずにはいられなくなるなど、悪魔の描写がコミカルなところに民話らしい面白さが宿る。
36|The Sermon
2018|イギリス|Dean Puckett
全編にわたってフォークホラー文体が駆使された10分ほどの英国産ショートフィルム。同性愛者に向けられた「魔女狩り」に、若い主人公が怒りの鉄槌をくだす。
37|Hereditary|ヘレディタリー/継承
2018|アメリカ|Ari Aster
★Netflix、U-NEXT、Amazon Prime Video等で視聴可
「21世紀で最も怖い」と言われる現代ホラーの最重要作のひとつ。家族間の軋轢、呪われた家族の歴史、そして降霊術・黒魔術などが織り重なり、次から次へと積み上がっていく恐怖。予告を見るだに怖そうなので、まだ観れていません。
38|Border|ボーダー〜二つの世界
2018|スウェーデン|Ali Abbasi
★Hulu、Amazon Prime、YouTube等で視聴可
人の感情を嗅ぎ分けることができる主人公が、ある謎めいた男と知り合うことで、自分の自身の知られざる秘密が明かされていく。現代ヴァンパイア映画の傑作『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者による議論を呼ぶダークファンタジー。
39|November|ノベンバー
2018|ポーランド・オランダ・エストニア|Rainer Sarnet
★2022年10月29日より日本公開
http://november.crepuscule-films.com
「死者の日」を迎える11月のエストニアを舞台に、アニミズムの思想をベースに異教の民話とヨーロッパのキリスト教神話が交錯する世界を描きだすダークでフォークなロマンス。エストニアの作家アンドルス・キビラークのカルト的ベストセラーが原作。
40|Midsommar|ミッドサマー
2019|アメリカ|Ari Aster
★U-NEXT、Netflix等で視聴可
『へレディタリー』に次ぐアリ・アスター監督作品。北欧のカルト教団を訪ねたアメリカ人の若者たちに次々と惨劇が襲いかかる、フォークホラーのお手本となる重要作。
41|The Wind
2019|オーストラリア|Emma Tammi
『Woodlands Dark & Days Bewitched: A History of Folk Horror』のなかで、広大無辺な入植地で展開される「西部劇×フォークホラー」の代表例として取り上げられるオーストラリア作品。
42|Pet Semetary|ペット・セメタリー
2019|アメリカ|Kevin Kölsch、Dennis Widmyer
★U-NEXT、Amazon Prime Video等で視聴可
1989年に映画化された、スティーブン・キングの傑作ホラーを、「フォークホラー」的装いをもってリメイクしたが、興行的にも、内容的に振るわない結果だったとか。
43|The Curse of La Llorona|ラ・ヨローナ ~泣く女
2019|アメリカ|Michael Chaves
★U-NEXT、Amazon Prime Video、Apple TV、YouTube等で視聴可
水のあるところに現れる「泣き女」の呪いを現代に蘇らせた、ラテンアメリカの民話をもとにしたフォークホラー。
44|Atlantics|アトランティクス
2019|セネガル・フランス|Mati Diop
カンヌ映画祭でグランプリを受賞した傑作。現代のセネガルを舞台にした美しくも切ない幽霊譚。仕事を求めて不法渡航して海に沈んだ男たちの亡霊が、残された恋人たちに乗り移り復讐を果たす。「すべてのラブストーリーはゴーストストーリーである」という作品の宣伝文句からして素晴らしい。
45|The Cunning Man
2021|イギリス|Zoë Dobson
死んだ家畜や鳥の遺体を収集する謎めいた農夫に隠された秘密とは。英国の田舎を舞台にした、不気味にして美しい短編フォークホラー。
46|A Folk Horror Tale(Maison Margiela ‘Artisanal’ 2021 Collection)
2021|フランス|John Galliano、Olivier Dahan、Kier-La Janisse
『Woodlands Dark & Days Bewitched: A History of Folk Horror』の監督キアラ・ジャニスが脚本で参加した、メゾン・マルジェラの2021コレクションのためのコンセプトビデオ。フォークホラーはファッションの世界にもインスピレーションを与えているのだ。
47|The Medium|女神の継承
2021|タイ・韓国|ナ・ホンジン(原案・制作)
★現在日本公開中
https://synca.jp/megami/
『哭声/コクソン』のナ・ホンジンが原案・制作を務め、現在絶賛大ヒット中の話題作。『哭声/コクソン』に登場する祈祷師の外伝として構想され、タイ東北部イサーン地方を舞台に制作。深い森、神秘的な洞窟、エキゾチックな儀式……「恐怖とエンターテインメントが完璧なる融合」と絶賛される、アジアンフォークホラーの新たな重要作。
48|Lamb|Lamb/ラム
2021|アイスランド・スウェーデン・ポーランド|Valdimar Jóhannsson
★2022年9月23日より日本公開
https://klockworx-v.com/lamb/
『ウィッチ』『ミッドサマー』を輩出した「A24」が北米配給権をゲットした注目のフォークホラー。アイスランドを舞台に、羊から生まれた羊でない「何か」を、亡くした娘として育てる羊飼いの夫婦を描いた衝撃の問題作。ノオミ・ラパスが主演・制作総指揮を務める。
49|The Essex Serpent|エセックスの蛇
2022|イギリス|Anna Symon(脚本)
★Apple TV+で視聴可
フォークホラーというよりはゴシック・フォークメロドラマとでも呼ぶべき作品だが、エセックスの沼に棲む怪物の民間伝承を軸に、エセックスの寒村の土俗的価値観、キリスト教的価値観や20世紀初頭の進歩的価値観などの交錯と軋轢を描き出す。
50|MEN
2022|イギリス|Alex Garland
『エクス・マキナ』『アナイアレイション:全滅領域』で知られる脚本家・映画監督アレックス・ガーランドの最新作は、田舎の小さな村を休暇で訪れたある女性が見舞われる恐怖を描いたスタイリッシュなフォークホラー。A24が北米での配給を手がける。
若林恵|Kei Wakabayashi 黒鳥社コンテンツディレクター。著書に『さよなら未来』、編著に『次世代ガバメント』『ファンダムエコノミー入門』など。ホラーは苦手だが、ゾンビものは観る。好きな韓国ドラマはもちろん『キングダム』。観るものがないときに繰り返し観る映画は「ボーン」シリーズ。
次週8月23日は「存在のための文化と著作権」(仮)をお届けします。ソーシャルメディアで誰もが表現者となったいま、著作権は変化のときを迎えている?──お楽しみに。